イニエスタ「自分はイチ選手ではない」。ケガの重症化を覚悟してPKに臨んだ (3ページ目)

  • 高村美砂●取材・文 text by Takamura Misa
  • photo by Getty Images

 キャプテンとしてだけではなく、イチ選手として、自身が担う期待と責任を果たしたい一心だった。

「僕はヴィッセルへの加入を決めた時から、自分がこのチームで持つ"重さ"を感じてきました。ただのイチ選手であってはいけないという覚悟もありました。それを"アジアタイトル"という結果で示さなければいけない、とも思っていました。

 もっとも、それによって長い離脱を強いられたことを思えば、自分の決断がよかったのかはわかりません。ただ、プロのアスリートは時に自分の存在がチームに与える影響を考慮して、そういった決断をしなければいけない瞬間が必ずあります。

 だからこそ、自分の決断に後悔はありません。唯一、最後までピッチに立ってチームをサポートしたかった、という点においては悔いが残りましたが......」

 結果的に水原戦を最後に、ACLの舞台からイニエスタの姿は消え、チームも準決勝・蔚山現代戦で敗れてベスト4で戦いを終える。

 イニエスタもその足で母国・スペインに戻り、手術に踏み切った。右大腿直筋近位部腱断裂、全治4カ月の重傷だった。

「ACLで負ったケガは、僕のキャリアで復帰までの時間を最も要するケガになってしまいました。しかも、36歳でこのような大ケガを負ったことで正直、いろんなことを考えました。

 特にケガをしてから手術を決断するまでの時間、そして実際に手術が行なわれるまでの時間は、精神的にも最も苦しみました。本当に手術をするべきなのか、手術がうまくいくのかという不安もあり、何度も自問自答を繰り返しました。それはある意味、僕自身のメンタリティ、サッカーへの思いを試されているような時間でした」

 手術をするという決断へ背中を押したのは、冒頭に記した昨年のパフォーマンスへの手応えだ。そこで実感していた自信が、再び彼を"サッカー"に向かわせた。

「2018年に来日してから、昨シーズンは日本のサッカーへの適応や僕自身のコンディションを含め、最も手応えを感じられる1年でした。だからこそ、新シーズンも可能な限りのトップパフォーマンスで、ヴィッセルのためにできるだけ長い時間プレーしたいと思ったし、そのためにはより確実な治療をして、できる限りの早期復帰を目指そうという考えに至りました」

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