Jリーグで勝利数の多い日本人監督の共通項。戦術優先ではなかった (2ページ目)

  • 後藤健生●文 text by Goto Takeo
  • photo by Getty Images

 ロシアW杯ではグループリーグ最終戦でポーランドに1点をリードされたものの、「0-1のスコアのまま終わらせて、フェアプレーポイント差(警告や退場の数)でラウンド16進出を目指す」というギャンブルに出て目標を達成。もし失敗したら、日本中、いや世界中から非難を浴びていただろう。そんな采配ができるのだから、西野という男の胆力には恐れ入るしかない。

 戦術にこだわる指導者ではない。

 戦術の遂行のために選手のプレーに制約を加えることよりも、選手が自分の特徴を発揮して力を出し切ることのほうが西野にとっては大事なのだ。「選手が気持ちよくプレーしてこそ、良いサッカーができる」という考え方だ。

 そして、勝点を取るために自らの哲学を曲げたりもしない。

 G大阪監督時代、1点差で敗れた試合後の記者会見で「最後はパワープレーに出ても良かったのではないか?」と質問したら、「あれがオレの『美学』だ」という答えが返ってきた。メディアの側が「勝利の美学」といった表現を使うことは多いが、監督自らが「美学」という言葉を使ったのだ。これは、確信犯である。

 西野が持つ最多勝利記録を追っているのが、西野と同じくG大阪の監督を務めた長谷川健太だ。J2に陥落したG大阪の監督を引き受けると1年目にJ1昇格を実現し、さらに昇格1年目でJ1、天皇杯、ナビスコカップの三冠を達成した。

 西野と同じように「戦術優先」ではなく、長谷川も選手の気持ちに訴えかけることによって選手の能力を引き出すのが得意な指導者だ。

 現在、長谷川はFC東京の監督を務めており、2021年シーズンでは虎視眈々と優勝を狙っているが、長谷川監督の下で永井謙佑やディエゴ・オリヴェイラといった選手たちは、献身的にチームのために走り切れる選手として生まれ変わった。また、長谷川の思い切った選手起用のおかげで下部組織出身の若手も着実に育ってきている。「個の力」を引き出すのが実にうまい監督だ。

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