佐藤寿人にあった幻の移籍話。「家族以外、誰にも言っていない」 (3ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 しかし、その時間は長く続かなかった。2014年、3連覇を狙った広島は8位に低迷。佐藤自身もエースの立場が揺らぎつつあった。

「あのシーズンは、年齢を重ねてきてなかでチーム内の競争もあって、出場機会も満足いくものではなかった。世代交代を意識させられた年でしたね」

 2014年の夏、佐藤はある"事件"を起こしている。アウェーでの鹿島アントラーズ戦。前半で交代を命じられた佐藤は怒りの感情を抑えきれず、森保監督に食ってかかってしまったのだ。

「交代を告げられた時に握手を拒否しましたし、受け入れられない態度を取ってしまいました。後半に臨むメンバーが気持ちを高めている横で、士気を下げてしまったかもしれません」

 エースとして、ましてやベテランとして、あるまじき行為である。佐藤は次の試合から2試合連続でベンチ外となった。しかしその事件は、その後のキャリアを歩むうえでの大きなターニングポイントとなったという。

「あれがあったから、21年間もやれたのかなと思います。ギラギラとしたものがなくなったら、ストライカーとしては終わりだと思っていましたから。あのあとに森保さんともゆっくり話をして、『そういう気持ちがあるなら、お前はまだまだ伸びるな』と言ってもらえました。信頼関係があるから、ああいうことになったのかなとも思います。

 それまでに森保さんは常に向き合ってくれましたし、その後も変わらず向き合ってくれた。仙台時代に選手同士で同じピッチに立った経験もありますが、本当に森保さんはすごく気を遣う人。僕にとって特別な監督ですね」

 その事件は、翌2015年の優勝につながることになる。すでに33歳となっていた佐藤は、自身の立場が危うくなっていることを感じていた。

「シーズンを通してレギュラーとして出るのは、もしかしたら厳しくなるかなと思っていました」

 成長著しい浅野拓磨の存在もあった。実際に開幕1週間前の練習でも、サブ組に組み込まれるほどだった。しかし、佐藤がクサることはなかった。

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