羽生直剛の心にグサッと刺さったオシムの言葉「少しでも受け継ぎたい」 (5ページ目)

  • 飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi

 サラエボで再会した2018年のあの日も、オシムは「もっとチャレンジしないといけない」と語りかけてきた。その言葉は、またしても羽生の心をグッと捉えた。

「スカウトという仕事にやり甲斐を感じていたのは確かだし、自身がスカウトした選手が監督に褒められたと聞くと、これこそスカウトの醍醐味だなって思うんですけど、ジレンマも感じていて。そんな時にオシムさんと会って、思うところがあったというか。あの人みたいに生きたいと思っているんですよね。あの人の生き方を真似たい。腹の括り方とか、哲学とか。それを指導者ではなくて、違った形で――」

 羽生が思い描く大きなテーマは、恩返しである。

「自分が所属してきたFC東京、ジェフ、ヴァンフォーレ甲府、筑波大、八千代高の人たちが喜ぶようなサポートがしたいし、オシムさんや城福(浩)さんといった自分を評価してくれた監督に対して、感謝の思いを形にできる人間になりたいと思っていて。例えば、スポーツに価値を見出している企業があったら、その企業と地域の人々、スポーツクラブを僕が結びつけてWin-Winの関係を築いていきたい」

 2020年のコロナ禍において、自身の思い描く方向性を、高校時代の後輩が示してくれた。

「カンボジアとナイジェリアにクラブを持っている後輩がいるんです。その彼が、新型コロナウイルスが蔓延した時、カンボジアの地域の方々に身銭を切ってお米を配ったんですよ。それでカンボジアの方々に囲まれて、みんなが笑顔になっているのを見て、『すごく良い働き方をしているな』と。リーグが再開した時、『お米をくれたクラブ』だって、みんながスタジアムに足を運んでくれるじゃないですか。地域のシンボルになっていく。それがサッカークラブのあるべき姿なのかなって。企業の持つ夢と地域の人々の夢、サッカークラブの夢を繋いでいく。そういうことをして、サッカー界に恩返しをしていきたいです」

 それはピッチの中で人と人を繋ぎ、"潤滑油"のような役割を果たした現役時代の羽生のプレースタイルそのものだ。「サッカーと人生は同じ」というオシムの言葉を、羽生は体現しようとしている。

5 / 6

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る