羽生直剛の心にグサッと刺さったオシムの言葉「少しでも受け継ぎたい」 (3ページ目)

  • 飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi

 オシムと出会った頃、羽生はプロ2年目。若さゆえのハングリー精神は旺盛だったはずだが、今思えば、野心の欠如は否めない。

「大学からプロになる時、周りから『3年くらい思い出づくりをしたら教員になればいい』と言われて送り出されたんです。自分はそれくらいのレベルだった。でも、1年目から試合に使ってもらって、給料が上がって、時計を買ったり、美味しいものを食べたり。それで満足したわけじゃないけれど、野心に満ちていたかといえば、そうじゃない。でも、このままじゃダメだよな、とも感じていた時にオシムさんと出会い、その言葉や振る舞いが心にグサッと刺さった。そこからは、自分がちゃんとやっているのか、問い詰めまくるようになりましたね」

 ある練習でのことだ。ウォーミングアップを兼ねた4人対2人のトレーニングが始まり、2分が経った時、味方選手との連係がずれて羽生がパスを受け損なった。

 サッカーではよくあるミスのひとつで、羽生ひとりのミスとは言えない。しかし、その瞬間にオシムの雷が落ちた。

「『走って来い』と言われて、『は?』と思って。ふて腐れた感じで1周走ったんです。それまでも1周走ったあとは練習に戻れていたから、その時も戻ろうとしたら、『まだ走れ』と。それで3周くらいしたあとで呼ばれて、『練習が始まってまだ2分だからって、ミスしていいわけじゃないだろう。試合が始まって2分でお前のミスから失点したら、お前、責任を取れるのか? 責任を取るのは俺だ。全力でやってくれ』と言われて。次の日からは集中してやるようになりましたね。そういうことを、ずっと刷り込まれてきたんです」

 みんなの前で羽生を叱ることで、チーム全体に伝えるという狙いもあっただろう。オシムからよく叱られた羽生は、いわゆる"怒られ役"だったわけだが、いつも叱られていたわけではない。時に掛けられる優しい言葉もまた、羽生を奮い立たせた。

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