羽生直剛の心にグサッと刺さったオシムの言葉「少しでも受け継ぎたい」 (2ページ目)

  • 飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi

 オシムに重宝された"オシムチルドレン"として知られる羽生だが、オシムがジェフユナイテッド市原(千葉)の監督に就任した2003年シーズン、開幕から3試合続けてベンチ外となった。負傷のためキャンプで出遅れたことも要因かもしれないが、前年、ルーキーながらトップ下のレギュラーを務めた羽生にとっては、喜ばしい状況ではなかった。

「不安はありましたね。今年は出られなくなるのかなって。開幕戦で4歳下の山岸(智)がスタメンに抜擢されたので、悔しいという思いもありました」

 だが、東京ヴェルディとの開幕戦で、羽生のモチベーションを高める出来事があった。

 リーグ戦初出場となった山岸が立ち上がりからミスを連発し、失点を招いてしまう。ハーフタイムにコーチ陣が山岸の交代を進言したが、オシムは「いや、待て。もう少し様子を見たい」と聞き入れなかった。すると後半、山岸が同点ゴールを決め、ジェフが逆転勝利を飾るのだ。

「その話をあとから知って、自分もしっかり頑張れば使ってくれると感じたし、活躍できるんじゃないかと思いましたね。実際、3節の(ヴィッセル)神戸戦で大敗した翌日、サテライトリーグの試合前に、コーチの江尻(篤彦)さんから『昨日の試合、見ただろ? チャンスだから、今日はボールがどこにあっても、その近くに自分がいるという意識でやってみろ』と言われて。そのようにプレーしたら、次の試合から使ってもらえるようになったんです」

 阿部勇樹、佐藤勇人、坂本將貴......といったオシムの教え子たちの中で、最もマインドを変えてもらったのは自分ではないか、という思いが羽生にはある。

現在は自身が立ち上げた会社「AMBITION22」の代表を務める(写真:FC東京提供)現在は自身が立ち上げた会社「AMBITION22」の代表を務める(写真:FC東京提供) 脳裏に浮かぶのは、シーズン開幕当初のオシムからの問いかけだ。それは、ことわざや比喩を用いた、いわゆる"オシム語録"ではない。もっと鋭く、本質的な指摘だった。

「オシムさんは僕らに『いつも中間順位にいて楽しいのか?』と。『優勝はできないけど、降格もない。なんのプレッシャーもなく、サッカーができていいよな。でも、それがいい人生だとは俺は思わない』と語りかけてきたんです。『なぜ、優勝を目指さないのか』『なぜ、代表を目指さないのか』『なぜ、野心を持たないのか』って」

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