高校サッカー優勝の山梨学院、指揮官が練った2つの青森山田対策 (3ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • 木鋪虎雄●撮影 photo by Kishiku Torao

 しかし、この日は違った。タイトルのかかった一戦で、守りの意識が生まれたのかもしれない。山梨学院はその隙を見逃さなかった。

 選手交代で攻撃姿勢を強めると、78分に途中出場の笹沼航紀のスルーパスから同点ゴールが生まれる。同点弾を決めたのは、10番を背負う野田武瑠だ。

「10番として、ここまで点が取れていなかったんですが、たくさんの人がメッセージをくれて励ましてくれた。支えてくれている人たちに恩返しできてよかったです」

 最後の最後にエースが意地を見せるというシナリオに加え、山梨学院には運もあった。82分に浴びた藤原のヘディングシュートはポストに助けられ、誰もが入ったと思われた終了間際の青森山田のスーパー決定機は、枠を大きく外れた。

◆高校サッカー選手権のロングスロー、あれってファウルじゃない?>>

 試合は2−2のまま延長戦にもつれ込んだが、ここでも決着はつかず、勝負はPK戦へと委ねられる。ここで青森山田の前に立ちはだかったのは、準決勝の帝京長岡(新潟)戦でも2本をストップしていた山梨学院の守護神、熊倉匠だ。

「PKは自信があった。PKだったら絶対に止めてやると思っていたので、今日は自分の日だなと感じていました。みんなにも楽しんで蹴って来いと。外してもいいからな、俺がいるからと声をかけられた」

 その言葉どおり、熊倉は2人目の安斎颯馬のシュートを完璧にストップした。実は熊倉と安斎は中学時代、FC東京U−15深川でチームメイトだった間柄。

「あいつと決勝でできてうれしかったし、あいつだけには負けたくないという気持ちで臨みました」

 そんなドラマも備わったPK戦は、その後、青森山田の4人目が外したのに対し、山梨学院は4人全員が成功。11年前の決勝と同様に青森山田を下し、山梨学院が2度目の全国制覇を成し遂げた。

 多くの人たちは、青森山田が勝つと思っていただろう。筆者も、そのうちのひとりである。

 しかし、まだ発展途上にある高校生の戦いは、予想もしないミスが生まれることもあれば、想像を超えるようなスーパープレーが見られることもある。ノーマークだったチームが大会中に劇的に力をつけ、強豪校相手に番狂わせを演じることもしばしばだ。

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