二冠達成。中村憲剛は川崎の切り札であり監督にとって心強い存在だった (3ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • 代表撮影●JMPA・ベースボール・マガジン社

 目の前の試合展開を冷静に見極め、最悪の事態をも想定したうえで、たとえ追いつかれたとしても延長でもう一度試合の流れを引き戻す。鬼木監督がその役割を託せるのは、中村をおいて他にいなかった。

 当の中村も、思いは同じだった。

「この展開でどうやったら力になれるか。それを考えに考えていた。最後の10分はガンバが押していたので、延長もあるかもしれない。そうしたら、延長で出番があるかもしれない。そこまで考えてアップしていた」

 結果的に川崎が逃げ切ったことで、中村は現役最後の試合でピッチに立つことはできなかった。やむをえないこととはいえ、鬼木監督は、この試合に課せられた"義務"のひとつを果たせなかったことになる。実際、鬼木監督は中村に「使えなくて申し訳ないと話した」という。

 クラブの顔だったレジェンドの現役ラストマッチ。世界中のどのクラブにおいても、それが非常に重要な試合であることは間違いない。

 とはいえ、すでに戦力と見なされていない選手が顔見せのようにわずかな時間出場することには、それはそれで寂しさもある。ましてチームがタイトル争いとはかけ離れた位置にいるとしたら、なおさらだ。

 だが、川崎は、中村は、そうではなかった。

 川崎はタイトル獲得のために死力を尽くして戦い、中村はそこに不可欠な戦力と見なされていた。この試合の中村は、間違いなく二冠達成の"切り札"だったのだ。

 ついに現役生活に幕を下ろした中村は、指揮官の後悔を汲み取るように「それはしょうがない。結果がすべて。それもまたサッカーかな」と言い、「これはこれでいい筋書きだったと思っている」と笑い飛ばした。

 試合終了直後は涙を見せながらも、試合後のオンライン会見では終始笑顔で饒舌だった中村が続ける。

「川崎は次のステージに向かうチーム。オニさんも(自分の出場を)考え抜いてくれたと思うし、出してあげたかったと言ってくれたが、それは監督の判断。オレでもそうする」

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