中村憲剛と小林悠、「兄と弟」の11年。話さずとも感覚を共有できる関係 (2ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 話せば話すだけ、伝えたい思いが溢れていく。来年から自分は誰とペアになり、練習のパス交換をすればいいのか。移動時に誰の隣に座ればいいのか。言っても仕方がないとわかっていても、思いをぶつけずにはいられなかった。

 30分近く話していただろうか。小林はどうやってこの場を収めていいかわからなくなり、涙を拭うと、「これからも憲剛さんの脛をかじっていきますけどね」と、笑いに変えるしかなかった。

「あの人のパスを受けたい」

 クラブハウスからの帰路には、川崎への加入が決まった時に、そう決意したことを思い出した。

「プロ1年目の時、自分はケガでリハビリをしていて、自分なりに憲剛さんからどうパスを受けるかばかりを考えて試合を見ていたんです。その後ケガがつづいて、以前はもうちょっと自分で何とかできるタイプでしたけど、それが難しいのもわかってきた。自分自身、プロでやっていくならば、プレースタイルを変えなければいけないなと思った時、味方の力を借りてゴールできるようにならなければいけないと考えたんです。それもこれも、プロ2年目の時に、憲剛さんのアシストからゴールを多く決められたからなんですよね」

 小林は、プロ2年目の2011年にJ1で12得点を挙げた。中村からのアシストも多く、そこでパスの出し手と受け手の関係性が重要だと実感した。

「最初は憲剛さんに遠慮して『このタイミングでほしい』とか言えなかったんです。でもある時、FWとしての自分の性格が出てしまって、憲剛さんがパスを出せたのに出さなかったので『出してくださいよ!』って、ちょっと強い口調で言ってしまったんです」

 言ったあとに少しばかり後悔したが、中村は素直に「ごめん」と手を挙げて謝ってくれたという。小林はその時、「若手の自分のこともひとりの選手としてリスペクトしてくれるんだ」と、驚いた。

 試合になれば、年齢やキャリアは関係ない。本音をぶつけ合って互いの距離はぐっと縮まった。

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