新時代を迎えた横浜FC。大ベテランの退団が象徴する若虎たちの躍動 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • ヤナガワゴーッ!●撮影 photo by Yanagawa Go

 ただし、左からの折り返しのボールを当てきれず、千載一遇の追加点の機会を逃すことになった。斉藤はベルギー2部、マンチェスター・シティの提携クラブであるロンメルSKへの移籍が決まっているが、海を越えて大成するには決定力が課題だろう。この日のような決定機を確実に決められるかどうか。シーズン3得点では物足りない。欧州では厳しくゴールが求められるはずだ。
 
 もっとも、世界が注目する若手を輩出したことは、横浜FCのシーズンの正当性を示している。

 鳥栖戦では、斉藤と同じ東京五輪世代のDF小林友希、MF瀬古樹、安永玲央、FW一美和成なども出場した。いずれも今シーズン、入団した若手ばかり。昇格チームは完全にアップデートされたと言えるだろう。

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 そしてチーム新人王に値するのが、大卒ルーキー(昨シーズンは強化指定選手としてプレー)の23歳、松尾佑介だろう。左サイドのアタッカーとして、チーム最多の7得点。第22節のベガルタ仙台戦で肩を痛めて戦線を離脱したが、それまでの貢献度は突出していた。

 松尾の武器は、圧倒的なスピードにある。しかし彼のスケールの大きさは、速さそのものではない。緩急を使い分けられることで、相手の逆を取れる点にあり、それも才能の一端と言える。その真価は、すべてのプレーがゴールに直結し、その精度も高いことにある。

 ドリブラーの称号を戴いていても、ゴールに近づくほど精度が落ちる選手は少なくない。しかし、松尾の場合はむしろ高くなる。ゴールという目的のために、ドリブルやパスが存在している。ケガがなかったら、今シーズンのベストイレブンの候補のひとりに入っても不思議ではなかった。シーズン後の去就は不明だが、欧州挑戦をするだけの能力を十分に備えたアタッカーだ。

 昇格1年目、これだけの若手選手の能力を引き出したチームは、ひとつの成功を収めたと及第点を付けられるだろう。

 もっとも、2021年シーズンは不透明である。斉藤のように欧州に移籍する選手が他にも出てくるかもしれないし、一美、小林のようにレンタルの選手もいる。リセットされることになるかもしれない。しかし、戦い抜いた1年は、何らかの形でつながるだろう。

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