中村憲剛が妻の手紙で知った想い。
「終わりがあるからこそ美しい」

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 毎年全力で勝負してきたから、今年の終わりに向けて、自分のなかでもがんばってきたことによる伏線が回収されていくというか、全部が揃っていく感覚があるんです」

 今、こうして躍動しているのも、自分で終わりがわかっているからだと言う。

「覚悟のなせる業(わざ)。そもそも来年のことは、復帰してからここまで1ミリも考えずにプレーしているので、残り数カ月間、燃焼するパワーというのは自分でいうのもあれですけど、すごいと思います。終わりを決めたからこそ、違うと思うんです」

 悔いはないのかと聞けば、「ないですね」と即答する。

「それに、『フロンターレ』で試合に出続けてやめたいんですよね。試合に出られなくなって、扱いにくい選手になって、終わる、やめるのではなくて、ちゃんとオニさん(鬼木監督)の手札に、選択肢の中に入っているうちに、みんなと競争して、試合に出てやめたいという思いがあった。

 もちろん、このあとも競争があるので、試合に出る、出ないというのはあると思いますけど、少なくとも試合に出られるところまで、戻ってくることはできましたからね。あとはこのレベル以上のものを出して、突っ走って終わることができたらと思います」

 そう話してくれたからこそ、「引き際の美学」について中村に尋ねた。

 3人の子どもに現役引退を告げるのは、自身も一番つらかったこともあり、自分はもちろんのこと、妻も手紙を書いて伝えたという。それは便せんで2枚にわたったそうだ。そのなかで、妻が長男に宛てて書いた文面を見て、中村は自分が歩んできた軌跡がすべて腑に落ちたという。

「妻が書いた手紙の中に『物事は変化があるからこそ楽しく、終わりがあるからこそ美しい』という一文があったんですよね。その手紙を自分も読ませてもらって、ものすごくいいことを言うなと思ったんですけど、その時、自分と妻がこれまで考えてきたことが、自分の中でカチッとハマった気がしたんです。

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