ゴールから逆算してプレーを選択する中村憲剛らしいキャリアの幕引き (2ページ目)

  • 浅田真樹●文 text by Asada Masaki
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 試合後、当人にもそんな懸念をぶつけてみると、中村は「オレ、水道屋さんみたいだね」と言って笑い、でも、とつないで、「言いたいことはわかります」と、悩ましげな表情を浮かべていたのを思い出す。

今季限りでの現役引退を発表した中村憲剛今季限りでの現役引退を発表した中村憲剛 だからだろうか、中村が先頃、自身のブログに「引退会見」と題して記した文章の一節が、妙にストンと腑に落ちた。

〈何年か前は自分が引っ張らなければと必死になっていましたが、今は後輩たちが本当に頼もしく成長してくれて同志に囲まれているような気持ちで自分もたくさんのチームメイトに支えられています。(中略)もう自分がいなくても大丈夫、みんなそれぞれ、自分の道と思って歩んで欲しいと思います〉(原文まま。以下同じ)

 今年10月31日に40回目の誕生日を迎えた中村が、突然、今季限りでの現役引退を発表した。

 もう自分がいなくても大丈夫――。その感覚を得られたことが、長年温め続けた彼の考えを一層迷いのないものにしたようだ。

 昨季、左ヒザ前十字靭帯断裂の重傷を負った中村は、今年8月に待望の戦列復帰を果たしたとはいえ、今季の出場試合数はわずかに6。それでも川崎は、22勝2敗2分けと圧倒的な成績で首位を独走している。

 風間の慧眼に類まれなセンスを見出された中村は、流麗なパスサッカーを操る川崎のなかでも特別な存在だった。だが、"中村水道修理店"が繁盛していた頃とは違い、その存在は、いい意味で目立たなくなってきたのは確かだろう。

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