世界一コロナ規制の厳しい国から来た男が語る、各国の対応とジョコビッチの意志 (3ページ目)

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko

―― セルビアのサッカー界はどういう対応をしたのでしょうか。

「ロックダウンに伴って即座にリーグを中止しました。長いユーゴスラビアリーグの歴史から見ても初めてのことです。この措置も迅速で、各クラブも活動を休止しました。いつも文句ばかり言っているセルビア人にとっては珍しいことです(笑)。

 ただ、再開と同時にいきなり観客を3万人も入れてしまった。これは拙速だったと思います。再度、制限しようとしたときに暴動が起きてしまったのもいきなり緩めてしまったことからの反動ではないかと思うのです」

―― 実際に最初はセルビアの人々があのような強権を受け入れたことには驚きがありました。他国のリーグにおけるコロナ対策についてはどう見ていますか。

「各国のメンタリティが出たとも言えます。私の家族は今、私が監督をした4つの国でそれぞれ生活をしています。妻がスペインのサラゴサ、長女がオーストリアのグラーツ、次女がセルビアのベオグラード、そして私が町田。当然、情報も入って来るし、現地の関係者とは意見も交換しています。

 スペインは残念なことに当初コロナに対して軽く見ていたのではないかと思われます。感染が広がって、リーガは活動停止になりましたが、再開したあとの日程の組み方も良くなかった。結果的にコロナの影響で昇格争いのチーム、残留争いのチームが大きな影響を受けてしまったのです。

 1部昇格を狙っていたフエンラブラダから28名の陽性反応が出たことで、2部残留をかけていたデポルティボ・ラ・コルーニャとの最終戦が延期になってしまった。延期はこの試合だけで、他は日程通りだったために残留を争っていたバロンピエとルーゴが勝利したことでラ・コルーニャは戦う前に降格が決まってしまった。

 また上位6位のチームも8月7日のフエンラブラダの試合結果を待つことでコンディション調整に苦労した。さらにプレーオフ開催が8月に延びたために私の古巣のサラゴサも大きな影響を受けた。エースのルイス・スアレスの契約が切れてレンタル元のワトフォードに返さなくなくてはならなくなったのです。レギュラーシーズンとは格段に落ちる戦力になるという事態で、公正性の面からもリーガのハンドリングは良くなかったと思います」

―― 柴崎岳選手がいたラ・コルーニャと香川真司選手がいたサラゴサ。くしくも日本人選手の所属するクラブです。リーガの対応は今も論争の的になっていますね。オーストリアについてはどうでしょうか。

「オーストリア・ブンデスリーガは厳格でした。スペインとは対照的に1部リーグ、2部リーグは無観客で行ないすべての日程を終了させました。3部リーグは再開しなかった。几帳面で理詰めで進めるドイツ的なメンタリティですね。

 これらと比べてもJリーグの対応は正しかったと思います。これだけ大きな国でプロサッカーを運営しながら、他国と比べて感染者が出ていない。町田ゼルビアはPCR検査を真っ先に行ない、プロフェッショナルとしての対応をしてくれました。我々のドクター陣にも感謝しています」

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