暴言吐いて殴る蹴る。伝説のトラブル王エジムンドが日本に来るまで

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

無料会員限定記事

あのブラジル人Jリーガーはいま 連載一覧>>
第9回エジムンド(前編)>>後編を読む

 サッカーの世界でも、エジムンドほどぴったりのニックネームを持つ選手は少ないだろう。

「オ・アニマウ」(野獣)。

 この名をエジムンドにつけたのは、オマール・サントスというブラジルの名サッカー解説者だ。1993年の5月22日、サンパオロ州リーグのパルメイラス対フェロヴィアーリア戦を中継している時に、彼は初めてエジムンドをそう呼んだ。

2001年、東京ヴェルディに移籍したエジムンド photo by Shimizu Kazuyoshi2001年、東京ヴェルディに移籍したエジムンド photo by Shimizu Kazuyoshi 勝ったチームが決勝に進出する重要な一戦だったが、83分になっても0-0のままで、そのまま延長に入るかと思われた。しかし、ここでエジムンドが奇跡を起こす。敵陣のペナルティエリアまであと5メートルというところでボールを持つと、敵をかわして攻め上がり、突然足を止め、ボールの下方を柔らかく叩いて浮かせた。ボールは相手DF、GKの頭上を越え、ゴールが決まった。これが決勝ゴールとなり、チームは勝利。おそらく彼が生涯決めた474ゴールの中でも、最も美しいゴールのひとつだったに違いない。

 オマール・サントスはこのファインゴールにたったひと言、こう叫んだ。

「オ・アニマーウ!」

 ボールを持ったエジムンドは人間業とは思えないすばらしい動きをみせる。緩急の変化をつけながら、するりとゴールに近づく。それはまるで、本能で戦うしなやかな野生の獣のようだった。

 しかし、アニマウにはもうひとつ意味がある。エジムンドのピッチ内外での信じられないような武勇伝だ。無礼で、粗暴で、破天荒で傲慢、それに類まれなるサッカーの才能が合わさってできあがったのがエジムンドという選手なのだ。

 1992年にヴァスコ・ダ・ガマでプロデビュー。彼がサッカーを始めたのもヴァスコであり、彼のヴァスコへの愛は生涯続いた。

 だが、彼が選手として頭角を現したのはパルメイラスであった。ちょうどイタリアの大手乳飲料会社パルマラットが、ブラジルのサッカーシーンに参入しようと、パルメイラスに肩入れした時で、エジムンドは200万ドル(当時のレートで約2億5000万円)の高額な移籍金で加入した。

1 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る