神がかったようにゴールを量産。
サガン鳥栖を新時代に導いた豊田陽平

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Getty Images

1993年~2019年Jリーグ
『私のMVP』~あの年の彼が一番輝いていた
第5回:2011年の豊田陽平(サガン鳥栖/FW)

 小学校2年生だった少年は、同学年の生徒よりもひと回り大きい体だったことで、一学年上の3年生のサッカーチームに所属していた。

 体育会の色がまだ濃厚に残る時代、簡単に受け入れられるはずはなかった。上級生たちの妬みか、ボールをパンクさせられ、しょげ返ることもあったという。しばらくは鬱々とした日々を過ごしていた。

 少年は3年生の中に入っても、体つきは明らかに大きく、それだけの理由でディフェンダーをさせられていたという。それにも不満を感じていた。いじめられている気分だった。

 しかし、ある日を境に状況は一変した。

 試合中、裏に抜けたボールがあった。彼は無心で体を投げ出し、スライディングタックルでインターセプトに成功した。

「ナイス!」
「いいぞ」

 いつもは乱暴で意地悪な上級生から、大きな声が続けて飛んできた。

《サッカーをしていて、自分が認められた!》

 少年は、それがたまらなくうれしかったという。当時、着ていた紫のユニフォームを砂まみれにし、無敵になれた気がした。体を投げ打ったプレーで周りに受け入れられ、チームの一員となる――。それは、彼の原風景となったのだ。

 2011年シーズン、筆者は豊田陽平(サガン鳥栖)の密着取材をしている。Sportiva連載ノンフィクション『アンチ・ドロップアウト』の一本だった。複数回のインタビューを数カ月にわたって重ね、そのルーツから生き様まで、人間そのものを掘り下げる企画だ。

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