2020.03.28

「サッカーそのもの」――イニエスタが
Jリーグでプレーしている幸せ

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 山添敏央●撮影 photo by Yamazoe Toshio

 筆者は興奮したまま、試合後に何も考えずロッカールームに飛び込み、「話を聞かせてくれ」と頼んでいた。今と比べれば、セキュリティはないに等しかったからできたのだが、さすがにほかの選手たちは目を丸めていた。のちに、スペイン代表としてユーロ2008で優勝したFWセルヒオ・ガルシアの刺すような視線を覚えている。当然だろう。東洋人の記者がロッカールームに入ってくるなど、常軌を逸していた。

 しかし、イニエスタは少しも動じなかった。

「ほんの少しならいいよ」

 そう答え、隅っこで少しだけ話すことができた。

 筆者は長くサッカーを取材してきたが、そこまで心を動かされた選手は、イニエスタだけである。

 リオネル・メッシも、バルサB時代にそのプレーを見ている。ただ、彼はトップに上がって揉まれるなかで、アタッカーとして進化していった。成長のカーブにこそ、その"怪物感"はあるのだ。

 一方、イニエスタは17歳の時点でサッカーを自由に表現し、そのプレーはほぼ完成していた。「あり得ない」。そう思わせる境地にいた17歳だった。おそらく、彼のようにサッカーの神に祝福を受けた選手に会うことは二度とないだろう。

 そのイニエスタがJリーグでプレーしている――。それは夢幻にすら思えるのだ。