高校サッカーの名門・イチフナが復活。選手が涙を流して語り合ったこと

  • 平野貴也●取材・文 text by Hirano Takaya
  • photo by Hirano Takaya

 苦しんでいた千葉県の名門が、息を吹き返した。1つの敗戦が、きっかけだった。9月15日、市立船橋高校は、ホームグラウンドの船橋市法典公園で柏レイソルU-18に1-4と大敗した。DF石田侑資(2年)はめげずに声をかけ続けたが、誰も応えなかった。

エースの鈴木唯人が市立船橋を引っ張るエースの鈴木唯人が市立船橋を引っ張る チームは、崩壊。今季は、波多秀吾監督が就任して1年目。新たなコミュニケーションを築き上げていく時期だったが、プレミアリーグで残留争いを強いられ、夏のインターハイでも千葉県予選の準決勝で敗退と苦しみ続けた。大敗したことよりも、勝負を続けられなかったことに憤りを感じていた石田の叫びを拾い上げたのは、波多監督だった。試合直後、クールダウンもせずに控室に引き上げると、長いミーティングが始まった。

「石田、言いたいことがあるなら言え」

 不甲斐ない戦いぶりに納得できなかった石田は、涙を流して訴えた。練習からモチベーションの高さが感じられないうえ、試合になってスイッチが入るわけでもない。一体、どう立ち直るつもりなのか。みんな、心当たりはあったが、誰かのせいにし、解決に動くことを避けてきた。

 その結果が、前に進む一体感を欠いたゲームであり、プライドを傷つけられる大敗だった。洗いざらい吐き出させようと考えた波多監督は、その場でほかの選手にも気持ちを語らせた。チームが見ていたのは、エースの背中だった。

「前のほうの選手が、全力でプレーしているとは思えない。もっと、しっかりやってほしい」

 とくに不満の矛先が向いたのは、FW鈴木唯人(3年、清水エスパルスに加入内定)だった。当時は、右MFが主戦場。試合途中で運動量が落ちる印象をみんなが持っていた。のちに「本当にやっていれば、100%でやっていると言い返せたと思うけど、そうじゃなかった」と振り返った鈴木は、みんなの意見を聞いてどう思うのかと波多監督に聞かれても答えられなかった。

 何度聞かれても答えは出ない。しかし、チームには鈴木の言葉が必要だった。自分たちが頼りにしているエースは、一体、どう思っているのか。本音でぶつかり合った今しか、チャンスはない。指揮官は挑発に出た。

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