引退後も来日。フェルナンド・トーレスが明かすJリーグを選んだ理由 (2ページ目)

  • 井川洋一●構成・文 text by Igawa Yoichi
  • 松岡健三郎●撮影 photo by Matsuoka Kenzaburo

 では、実際に日本で生活を始めてみて、印象は想像どおりだったのだろうか。

「僕らがこれまでに知っていたものとは、完全に異なる日常があった。ヨーロッパと日本では、文化や慣習、考え方が違うからね。たとえば日本の小学生が子どもたちだけで学校に通う姿には、とても驚いたな(スペインでは通常、親が送り迎えする)。うちの小さな子どもたちは、日本の学校や友だちとの日々の生活を通して学んだ価値観を備えている。きっと、これからも忘れることはないだろう。

 それから、多くの新しいことを発見した。宮島や高千穂、福岡など、家族でいろんなところを旅行し、たくさんのすばらしい場所を見つけた。美しい寺を巡り、静かな場所で心を安らげることができたのは、本当によい思い出だよ。自分自身に立ち返り、静寂を味わえた。都会ではまずできない贅沢だね。

 日本での日々は、家族全員にとって、本当にポジティブな経験だった。だからこそ、これからも日本とのつながりを保ち、できるかぎり戻ってきたいと思っているんだ」

 彼の幼少期のアイドルのひとりは、スペインでは『オリベルとベンジ(Oliver y Benji)』の題名でテレビ放映されていた『キャプテン翼』の大空翼(オリベル)だ。日本で生まれたこのアニメの存在も、移籍の決断を後押したのかと思ったが、それはトーレスにもっと根本的な影響を与えたという。

「それは移籍の理由のひとつではなく、僕がフットボールを始めた理由のひとつだ。5、6歳の頃、僕は学校やストリートでボールを蹴っていたんだけど、当時のスペインにはフットボールの試合の映像を流すチャンネルがほとんどなかった。だから選手を観るにはスタジアムに行くしかなくて、その頃の僕にはあまりチャンスがなかったんだ。

 そんな時に『オリベルとベンジ』の放映が始まり、毎日ドキドキしながらそのアニメを見ていた。少年が引越しをして、新しい友だちをつくり、新生活に馴染んでいき、フットボールの練習に明け暮れる。何度も困難に直面し、それらを乗り越え、プロや代表選手になって、大きな大会に出場する。そんなストーリーは、僕にプロのフットボーラーになる夢を与え、その夢を生きるとはどんなことかを教えてくれた。つまり、希望を与えてくれたんだ。あのアニメが大好きだったよ」

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る