徳島ヴォルティスがJ1昇格へあと1勝。指揮官が見つけた戦術の最適解 (2ページ目)

  • 中山淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi
  • photo by Nikkan sports/AFLO

 しかし、対する徳島は冷静に対処した。山形の前に出る勢いを吸収するかのようにDFラインを下げると、1トップ以外の9人がコンパクトな状態をキープしながら的確なポジショニングで連動。相手にまったくスペースを与えず、ほとんどピンチを招くことはなかった。

 押し込まれる時間帯では、ボールを奪った後は無理にボールをつなげず、ロングボールを蹴る。その割り切ったスタイルも、昨季から積み上げたもののひとつだ。

 とはいえ、5バック状態でも徳島が守備的に見えない理由は、ボール奪取後の素早い切り替えと、縦への推進力にある。とりわけ、スペースを見つけたら各選手が自分のポジションに固執することなく、空いたスペースに向かって直線的に走る動きは、攻撃的姿勢そのもの。3バックの左を務める内田裕斗が右サイド敵陣深いエリアまで攻め上がり、そのままチャンスに絡んだシーンはその象徴だ。

 どこにスペースがあり、どこにポジションをとるべきか。味方がスタートポジションを離れて攻撃に参加したら、そのスペースを誰が管理するのか。各選手がそれらの判断を的確にできるからこそ、リカルド・ロドリゲスが標榜する攻撃的スタイルが成立する。だから、第28節のアビスパ福岡戦以降、一貫して指揮官が採用する3-4-2-1も攻撃的に機能する。

 前半32分。左ウイングバックに入った島屋八徳が相手3バックの右脇をインナーラップし、野村直輝がそれを逃さず絶妙なスルーパスを通して作った決定機は島屋が決めきれなかったが、そのワンプレーから勢いの天秤は徳島に傾き始めた。

 そして、徳島が風上に立った後半は、完全に形成が逆転。この時を待っていたかのように前線からのプレッシングで圧力をかけ、敵陣でポゼッションしながらジワジワと相手を追い込んだ。

 そんななか、53分に鮮やかな速攻から決勝ゴールが生まれる。

 GK梶川裕嗣のゴールキックを1トップの河田がヘッドで落とすと、高い位置をとっていた右ウイングバックの田向泰輝がダイレクトで中央の野村へパス。受けた野村が素早くDFラインの裏を狙ってスルーパスを送り、抜け出した河田が前に出た相手GKをあざ笑うかのようなループシュートでネットを揺らしたのである。

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