謙虚なスーパースター、ダビド・ビジャが日本にもたらしたもの (2ページ目)

  • 井川洋一●文 text by Igawa Yoichi
  • photo by KYODO

 だが、ビジャはシンプルでまっとうな人間だ。おそらくそれは、物質的には豊かでなくても、温かい人々の愛情や笑顔に包まれて育った環境によるものだろう。「家はとても小さかったけれど、いつも友たちや親戚でいっぱいで、僕はすごく幸せだった」とビジャ自身が語っているように。

 そして、「年齢を重ねていた自分に懸けてくれた」ヴィッセル神戸と三木谷浩史会長にも、会見で特別な謝意を述べている。自身を神戸に誘ってくれたアンドレス・イニエスタらチームメイトやクラブ関係者全員にも、心からの礼を述べた。

 そのビジャの気持ちと同じくらい、日本のサッカーファンも彼に感謝しているだろう。1シーズン限りとはいえ、2010年W杯最多得点者にして、スペイン代表歴代トップスコアラーのパフォーマンスを目の前で堪能できたのだから。

 世界トップクラスの舞台で活躍してきたビジャは、この年齢でも高度なスキルを維持している。本稿執筆時点で、今季リーグ戦26試合に出場し、12得点2アシスト。第2節サガン鳥栖戦では盟友フェルナンド・トーレスと対戦し、Jリーグ初得点を決めて、チームの今季初勝利に貢献した。

 その後も、瞬時にマークを外してニアサイドで機先を制したり、完璧なヘディングを叩き込んだり、得意の左45度から巻いたシュートをネットに収めたりした。

 なかでも、白眉は第18節清水エスパルス戦で決めたゴールだろう。右後ろからフィードが送られてくると、右の足裏でバウンドを処理して、瞬時に左前方に持ち出す。そのままマーカーを出し抜き、迫りくるGKを右足から左足への連続タッチでかわすと同時にゴールを陥れた。映像を何度か見返さないと、何が起こったのかさえよくわからないような、別次元のスキルだった。

 またビジャは、ビッグネームにありがちな不遜な態度やあからさまなフラストレーションをピッチ上で示すことは一切なく、ゴールや勝利を挙げると、チームメイトたちと大いに喜んだ。筆者も試合後に何度か取材する機会に恵まれたが、常に真摯でオープンに対応してくれたことが印象に残っている。

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