ヴェルディ永井監督が
陶芸家から学んだ「芸術としてのサッカー」

  • 会津泰成●文・撮影 text&photo by Aizu Yasunari

 永井には大嶺氏との忘れられない思い出がある。2013年、6シーズン在籍したFC琉球の退団が決まり、明日、沖縄を離れて東京に戻ることを報告した時だ。

「サッカー選手として過ごした沖縄での生活は楽しいことばかりではなかった。でも、大嶺先生から最後に、『長い間、沖縄のためにありがとう』と言葉をいただき握手を求められた。

 自分が沖縄を離れると決まった時、残念ながら誰一人としてそんな言葉はかけてくれなかった。でも、大嶺先生は違った。大嶺先生の一言で、悔しいことも嫌な思いもすべて消えたし、心が晴れた。感動のあまり返す言葉も出てこなくて、必死で涙をこらえた」

 永井は、当時をそう振り返った。

 そして今、大嶺氏と再会を果たした永井は、「先生、作品を見させていただいてよろしいでしょうか」と言い、アトリエ隣の工房に移動した。棚には青や白、黒、茶など色とりどり、大きさや形もさまざまな作品が並んでいた。お皿やお椀、湯のみ、そしてオブジェもあった。

 永井が黙って見つめていると、隣で大嶺氏が話し始めた。

「オブジェのようなものは、わかりにくいと言われる。でも、すぐに答えの出る、わかりやすさから離れることも必要なんだ。時間をかけて同じものを見続けてやっとわかる世界もある。物事の本質はそういうところにある気がしている。わかりやすい形式から離れてみると、世の中のことに対して『それだけではないよな』と思えてきて、ものの考え方や見方が自由になるものなんだ」

 大嶺氏の話は、永井が取り組んでいることにも重なるように思えた。永井は今、多くの人々を感動させるサッカーを目指している。常に数的優位を維持し、全員攻撃、全員守備のトータルフットボールで、90分間、ボールを持ち続けて(相手を)圧倒して勝つ。日本人の特性を活かし、フィジカルに頼らない、勤勉で緻密な、世界でも戦えるスタイル。

 しかし現時点では理解者も少なく、結果が出なければ、つまり試合に負ければ「もっと普通にやればいいのに」と言われ、明日の勝利を最優先に求められた。永井はそんな現実を受け止めつつも抗(あらが)い、自らの理想を追い求めていた。

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