高校サッカーで奮闘。社会の厳しさを知る元Jリーガー監督の過酷な現実 (3ページ目)

  • 森田将義●取材・文 text by Morita Masayoshi
  • photo by Morita Masayoshi

 関西にも、もがきながら指導者としてのキャリアを積んでいる、元Jリーガーの監督がいる。滋賀県の草津東高校を卒業して清水エスパルスに2年間在籍。シンガポールやドイツの下部リーグでもプレーした前田高孝氏だ。

 引退後は関西学院大学に入学し、学生コーチとして指導者のキャリアをスタートさせたが、自身が生まれ育った滋賀県湖北地区に全国で戦えるチームを作りたいと考え、2015年に本格強化を始めた近江高校の監督に就任した。

 部の歴史がなく簡単には人が集まらないため、就任1年目の前田監督は県内の中学やクラブチームへのあいさつ回りに専念し、「一緒に歴史を作ろう」と声をかけ、一期生をかき集めた。

 就任当初から選手のプレー面を鍛えるだけでなく、ピッチ外での育成に励んだのは近江の特徴と言えるだろう。龍谷高と同じく部内に分析や清掃など複数の係を設置し、一人ひとりに役職を与えることで責任感を持たせた。

 その一つが部内の紅白戦をいかに盛り上げるかを考えたり、大会前に行なう決起集会を計画する『企画係』だ。今年はペットボトルのキャップを回収し、リサイクルで得た利益で発展途上国の子ども向けワクチンを購入して寄付する「エコキャップ運動」を行ない、滋賀県知事から表彰された。

 選手から挙がってきた活動案を前田監督が止めることはほとんどない。

「学校の良い子は先生に言われることを聞ける子だけど、社会で通用する子は言われることを聞くだけではなく、自分の発想をプラスアルファできる。先生の意見を聞いているふりして、さらにすごいことができたり、レールの上を歩かない子が生き残っていける。サッカー部の活動を通じて、社会に出てからたくましく生きていける子どもが一人でも育ってほしい」

 こうした考えはJリーガーとして、社会の厳しさを知った監督ならではかもしれない。

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