ヴェルディ監督への想い。永井秀樹はユースで「合唱」を練習していた (2ページ目)

  • 会津泰成●文・撮影 text&photo by Aizu Yasunari

 針が振り切れるまで戦い続ける。

 それはトップチームの選手に伝えたいメッセージであると同時に、ヴェルディ再建を託された自分自身に対する誓いの言葉でもあった。

 永井はその日、トップチームの練習が終わると、夕方にユース選手の待つ部屋へと向かった。

 部屋の中に入ると、すでに何人かは顔を伏せて泣いていたという。

「『プロの世界は何が起こるかわからない』。みんなにはずっとそう言い続けてきたが、今回、現実にそういうことが起きた、ということ。本音を言えば、クラブユースまではみんなと一緒に戦いたかった。でも、トップチームの危機を救うために、俺は行かなければならない」

 あえて淡々と話すと決めていたが、言葉はしだいに熱がこもっていった。

 永井は、この時にこみ上げてきた感情を振り返りながら、ユース選手たちとの思い出について語った。

 ユース監督就任時、「常に数的優位を維持し、90分間ボールを保持してゲームを支配する。全員攻撃、全員守備のトータルフットボールで相手を圧倒して勝つ」と高い理想を掲げていた。

「組織の力をより駆使して戦うことで、自分たちよりも体格や体力に優れた相手に勝つ、まさに合唱やオーケストラのように、全員で『共鳴』することに重きを置いたスタイル。それこそ日本人が世界トップレベルの国やクラブを相手にしても渡り合える、唯一無二の方法であると思っている」

 ただ、予想はしていたが、やはり高い理想を選手たちに落とし込むことは簡単ではなかった。就任当初はトレーニングマッチでも法政二高に3-8、横浜FCユースに0-7で完封負けという大量失点による連敗が続いた。すると、周囲だけでなく選手の間からも、永井から求められる高い理想と結果の出ない現実の狭間で、「今のまま続けていいのか」と不安に揺れ動く様子が伝わってきたという。

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