日本サッカー指導者が中国に進出。「元祖・天才」菊原志郎が語る実情 (2ページ目)

  • 鈴木智之●取材・文 text by Suzuki Tomoyuki
  • photo by Sportiva

 インタビュー場所に現れた菊原は「僕がいる、広州の写真を見せましょうか」と言って、iPadを慣れた手つきで操っていく。画面の中には10面以上ある整備されたグラウンドや瀟洒な宿舎が次々と映し出され、高層ビルが立ち並ぶ街中の景色がスクロールされていく。

「みなさんがイメージする中国と違うでしょう。僕がいる広州は大都会です。APMという地上と地下を走る電車は無人で走るし、支払いはすべてスマートフォン。治安も良いです。家の近くには、すき家も丸亀製麺もイオンもあって、過ごしやすいです。平均気温は30度から38度ぐらいですが、日本に帰ってきたら、日本のほうが暑く感じますね。この暑さはすごいですね」

 そういって菊原はコーヒーに口をつけると、中国の育成事情を話し始めた。

「少し前の中国の育成年代は、蹴って、走ってというサッカーをしていたようですが、近年はどのクラブのアカデミーもヨーロッパから指導者を連れてきているので、パスをつないで攻撃し、組織的な守備をするチームが増えてきました。ただ、サッカーに関する理解度はこれからなので、僕の場合は映像を使って『なぜここにポジションを取ったほうがいいのか』『なぜこの失点が生まれたのか』といった、サッカー理解の部分にもアプローチしています」

 中国はチームが学年単位で活動し、学年ごとに大会が開かれる。菊原が監督を務める広州富力U-14は、2019年に日本のインターハイに相当する中国青年運動会U-14で優勝し、自身も最優秀監督賞を獲得。中国全土を6つの地域に分けて開催されるリーグ戦でも、強豪の地位を築き上げている。

「中国は結果が求められるので、大会で勝てたのは素直にうれしいです。でも、それと同じぐらいうれしかったのは、フェアプレー賞をもらえたこと。僕らは日本人的なメンタリティーで、選手にはファウルをするなと教えています。中国には、勝つためには激しい接触も多いチームもありますが、僕らは試合での勝ち負けだけでなく、子どもたちの教育、そして成長を第一に考えています」

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