鳥栖監督は忖度ナシで信頼ゲット。「下がるな」の徹底で降格圏脱出へ (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Masashi Hara/Getty Images

 カレーラス体制で、豊田はほとんど起用されなかった。しかし、金体制になると少ない出場時間ながら3得点。かつて鳥栖をJ2から昇格させ、J1に定着させた地力を示している。

<選手の能力をチームプレーヤーとして使い切り、成長も促す>

 そこに金采配の光明がある。J1の監督を見渡しても、選手マネジメントは屈指だ。深刻な不振にあった選手が回復し、不当に定位置を追われていた選手が力を発揮している。

「残留戦という意味では、去年の方が厳しかった。(残り数試合で)サイコロを振るような戦いはもうしたくないですね。去年よりも積み上がっているものはあるし、今は手応えを信じられます」

 金監督の信頼を受け、バックラインから攻守両面で任務を遂行する小林祐三は、確信を込めて語っている。小林も、金監督になってからポジションを取り戻した選手だ。

「明輝さんは選手を公平に見てくれますね。だから、ラッキーボーイも出てきやすい。練習でよければどんどん使ってもらえる。(セレッソ戦で同点弾を決めたFWの林)大地はいい例だと思います。どうやってボールを受け、進み、ゴールに入れるか。そこがはっきりしてきました。自分たちのサッカーに固執せず、相手を見ながら微調整し、一方で自分たちが能動的によさを出せるように、と」

 基本的なポジション取りや動き方が徹底され、やるべきことが明確化されて、自然と選手のプレーが改善した。不遇をかこっていた高丘陽平、安庸佑が台頭し、チアゴ・アウベス、金森健志ら移籍組もチームに適応。プレーモデルのなかで個性を見せ、その戦い方は融通無碍(ゆうずうむげ)だ。

「下がるな!」

 金監督は基本姿勢としてそう言う。腰が引けたら、勝利はおぼつかない。豊田は前から守り、小林は高い位置で攻める。攻守一体、トータルサッカーとも言える。

 金監督の采配は、「鳥栖らしさ」をアップデートさせつつある。鳥栖で選手としてプレーしただけでなく、ユース年代を指導しており、まさに適役だ。指導者として、コーチではなく監督一筋だけに、ストレスのかかるなかで決断し、集団を束ねることができる。

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