2019.07.22

奈良にドリブル指導の仙人がいる。
全国に臨む五條高サッカー部の可能性

  • 森田将義●取材・文 text by Morita Masayoshi
  • photo by Morita Masayoshi

 選手の多くが入学してからの成長を口にするように、実際に育成面でのメリットは大きいが、五條高に来た当初、吉岡監督はドリブルスタイルを封印していた。「就任するまでは初戦敗退が続いていたチーム。五條高の名を広めてより良い選手に来てもらうために、短期で結果を出せる蹴るサッカーを選んだ」(吉岡)ためだ。

 しかし、定年が間近に迫ってきてからは自身の悔いを残さないために封印を解き、2013年度の高校サッカー選手権予選からは4年連続で奈良県の決勝まで進んだが、いずれも惜敗となった。

 迎えた2017年度は、指揮官が理想とする「ドリブルをテクニックとメンタルを兼ね備えたチーム」ができたため、吉岡監督は周囲に対してきっぱりと公言した。

「赴任してからインターハイには行けたけど、選手権は一度も行けていない。何とかチームを選手権に出してから辞めようと思っていたけど、それは自分にとっての言い訳になっていたかもしれない。今年のチームで負けたら、監督を降りる」

 自らを追い込んで高校サッカー選手権予選に挑んだものの、大会直前にキャプテンが足を骨折。大会が始まってからも主力2人が負傷したため、チーム状態が万全ではなく、準々決勝で涙を飲んだ。

 宣言どおり吉岡監督は指揮官の座を退き、2018年度は総監督としてBチームの指導を行なったが、選手権出場にかける想いはおさまらず今年に入ってから監督に復帰。前年度から主力が8人も残るため今年はチームとしての完成度は高く、奈良県1部リーグでも快調に白星を重ね、上位争いを展開した。

 吉岡監督は手応えもあったため、インターハイは選手権への通過点と考えていた以前の考えを改め、今年は全力で夏の全国大会出場を目指した。

 思考を変えれば、不思議と心境も変化する。これまでは試合前になると選手以上に吉岡監督が力んでいたが、今回のインターハイ予選は「(以前なら)試合前日夜や当日の朝は、試合に勝つためにミーティングで何を話そうかなど、頭がサッカーのことでいっぱいになるけど、今回はそうならなかった。負けるなんて一切考えず、自分自身がいちばんリラックスしていた」と言う。