「久保建英抜き」の首位FC東京が、初優勝するために必要なこと

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 山添敏央●写真 photo by Yamazoe Toshio

 試合後のレアル・マドリード移籍壮行セレモニー。マイクの前に立つ久保建英はそう言った。18歳とは思えない堂々とした様子で、喋りがうまいわけではないが、自分の言葉を持っている。

「3年半から4年、東京で過ごして、(それはスペインに)行きたくなくなるほどの濃い時間で、一生忘れません」

 久保は霧雨に打たれながら、そう話した。スタッフに差し出されたタオルで一度、肌を拭い、傘を断って会場を一周。最後はゴール前でチームメイトに胴上げされた。

試合後のセレモニーでFC東京ファンに別れを告げる久保建英試合後のセレモニーでFC東京ファンに別れを告げる久保建英 それは、祝福すべき旅立ちなのだろう。

 しかし、FC東京にとってそれは、「久保抜き」での戦いを意味していた。久保は主力と言うより、もはやエースだった。久保の離脱後、チームはリーグ戦で2連敗し、無得点だ。

「(久保移籍で)ゼロからのスタート」

 FC東京の長谷川健太監督はそう位置づけている。

 6月29日、味の素スタジアム。首位に立つFC東京は、「前半戦王者」の座をかけ、2位の横浜F・マリノスと対決している。横浜FMとの勝ち点差は3。3位の王者・川崎フロンターレは1試合未消化で、勝ち点差は5。一歩でも引き下がれば、飲み込まれる。

 FC東京は前線からのプレッシングで、ボールを追い込む。それを回避する技術を見せる横浜FMに対し、今度はリトリートし、堅固に構える。そして引き込んで「後の先をとる」カウンターを狙う。リアクション戦術の充実はリーグ随一だ。

<横浜FMは高いラインを取る。まるで2バックのようで、サイドバックの裏は必ず空く。徹底して裏。サイドチェンジも有効になる>

 FC東京陣営は、シンプルなコンセプトで挑んでいた。

 ところが、横浜FMに一瞬の隙を突かれる。前半15分、FC東京は左サイドに出されたボールに対し、ラインを割ると判断したか、後手に回る。仲川輝人に自由にボールを持たれ、絶好のクロスを折り返される。するとボールが滑ったのか、GK林彰洋が後逸。ファーサイドからマルコス・ジュニオールに押し込まれた。

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