伊藤翔は海外→日本の移籍で苦労「小野伸二さんに教育してもらった」

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko
  • 渡部 伸●写真 photo by watanabe shin

遺伝子~鹿島アントラーズ 絶対勝利の哲学~(45)
伊藤 翔 後編

 数少ないチャンスで得点し、1-0のまま逃げ切る。

 6月18日AFCチャンピオンズリーグ、ラウンド16ファーストレグの対サンフレッチェ広島戦を、その代名詞とも言われるスコアと試合運びによって勝利で終えた鹿島アントラーズ。ACLディフェンディングチャンピオンにとっては、相手にアウェーゴールを与えずに勝利するという使命を果たした。

 昨季の同大会決勝トーナメントもすべて、ファーストレグ第1戦をホームで戦って勝ち上がった(ラウンド16・上海上港戦3―1、準々決勝・天津権健戦2-0、準決勝・水原三星戦3-2、決勝・ペルセポリス戦2-0)。その際、ホームでの失点がセカンドレグを苦しい試合にしてしまう......という経験をしている。ホームアンドアウェーでの2戦を戦う180分の試合と考えるにしても、アウェーゴールは通常の試合とは違う重さがある。

 最初、攻勢に出た鹿島だったが、時計の経過と共に、広島も勢いを増していく。ボールをつなぎ攻め込んでくる相手に対しても、鹿島は慌てることがなかった。そして、それは24分に鹿島が先制点を決めると、さらに継続され続ける集中力もあった。

「前線からの守備もハマっていた。いい守備の形ができていたし、相手も困っていたと思う。今日ぐらいできれば相手も自由にプレーできなくなる。これを続けていくことが大事」と犬飼智也が語っている。前試合のセレッソ大阪戦後に三竿健斗がわかったと言っていた「自分たちの守りやすい形」をうまくピッチで表現できたのだろう。

 73分に鹿島は最初の交代カードを切る。左サイドバックの安西幸輝に代えて、町田浩樹を送り込んだ。「1枚目の交代はアクシデント」と語ったうえで、「1-0のままでいいという考えはなく、当然、得点を狙うことも考えていた。同時に無失点で終えることも重要で、そのバランスを考えて交代のチョイスをした」と大岩剛監督が語る。

 町田の本来のポジションはセンターバックだ。この交代で「無失点」という意識が強くなったのかもしれない。この時点で広島のベンチにはまだパトリックがいる(74分に川辺 駿に代わり途中出場)ことを考えれば、先手を打つという意味合いもあったのかもしれない。この頃から広島の猛攻は強まっていった。そして、鹿島の反撃のチャンスもまた少なくなった。

「早い時間帯でリードしたので、選手たちの『しっかり守備をしてから攻撃』という意識が高まり、そういう状況になったと思う。しっかり分析して、第2戦に備えたい」と大岩監督。

 1-0という最低限の結果を手にはしたが、「追加点がほしかった」という消化不良感も残る試合だった。特に86分に退場者を出した広島に攻め込まれ続けたというのも後味は悪い。

「相手が10人になってから押し込まれる時間もあった。そこでギアを上げ、点を取りに行くという姿勢を見せたかった。もう少し守備の部分でもできるところはあったと思う」

 先発出場を果たした遠藤康は、淡々とそう試合を振り返った。

 1-0という意識で第2戦を迎えてはならない。広島の選手に限らず、鹿島の選手も同様だろう。だからこそ、6月25日の広島での試合は、先制点が重要な試合になる。

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