イニエスタとは阿吽の呼吸。「全力疾走をしない」ビジャのすごさ (2ページ目)

  • 津金壱郎●構成 text by Tsugane Ichiro
  • photo by Getty Images

 そこで私は、ウーベにボールが渡ると常に彼を観察し続けた。次第に彼がパスを出す前に見せる予備動作がわかり、そこから彼のタイミングでDFラインの裏に抜け出してパスを受けられるようになった。

 ただし、FWというのは常にパスが出てくるのを待っているわけではない。ボールを持った味方の頭が下がっていたり、悪い体勢だったりすると、動き出したりはしない。FWというものは、できれば無駄走りを避けたい。だから、パスが出せない姿勢の選手をすぐに見抜かなくてはいけない。

 一方で、DFラインの裏側でパスを受けるために、オフサイドラインと駆け引きしながら走り込むことも忘れてはいけない。ジュビロ磐田にいたサルバトーレ・スキラッチ(元イタリア代表/W杯イタリア大会得点王)は、オフサイドになろうとも、1試合のなかで何度もDFラインの裏を狙い続けた。

 もう少しタイミングを遅くすればいいと考えがちだが、レベルの高いストライカーになるほど、オフサイドになるギリギリのタイミングを狙い続ける。なぜなら、それが相手DFに対するプレッシャーになって、守りの意識が強まることでDFラインをじりじりと下げることができるからだ。

 そうなったらスキラッチのものだ。よりゴールの近くに生まれたスペースへ侵入できるようになり、駆け引きをして、シュートを打つ。もちろん、その瞬間にパスが足元にスパンと来る必要がある。そして、当時のジュビロ磐田には名波(浩)や(藤田)俊哉がいて、パスを出せる選手が複数いた。

 その点で、サガン鳥栖のフェルナンド・トーレスはストレスを溜めている可能性が高い。FWは一歩、二歩の動きで自分が得点するためのスペースをつくる。その時にパスが入るからシュートに持ち込めるのだが、現状でサガン鳥栖にはそのパスを出せる選手が少ない。

 いまのトーレスは、欲しいタイミングでパスが出てこないから、パスの出し手に無理に合わせて動いているのではないか。ただ、それだと、スペースのない状況では相手を崩せず、ゴールにつながりにくいのは言うまでもない。

 この気持ちも、個人的にはわかるつもりだ。私自身、ウーベが浦和を去ったあと、ウーベのときと同じタイミングでDFラインの裏に出ていくと、ほとんどがオフサイドになるかタイミングがズレた。この時も、チームメイトと呼吸を合わせることがいかに難しいかを実感した。

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