トーレス抜きの鳥栖劇場。戻ってきた伝統の「固い結束」で3連勝 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by KYODO

「フェルナンド・トーレスはゴールすることに集中するべき。そのために体力を残す。守備は一切しなくていい」

 前任のスペイン人監督ルイス・カレーラスの考えは偏っていた。所属選手の特性も考えず、攻守のバランスは崩壊。4月28日の湘南ベルマーレ戦で敗れると選手の信用も失い、事実上、更迭されることになった。

 金体制で、トーレスは先発メンバーから外れている。この日も、ピッチに立っていない。直近のリーグ戦3試合は、出場5分、1分、出場なし。トーレス抜きで「鳥栖らしさ」が戻ったというのが現実だ。

 金監督が率いるようになって、鳥栖は本来の「消耗戦の強さ」が出ている。ハードワークとひと括りにされるが、闘志をむき出しにして走るだけではない。戦術的な意図が明確になっている。

「鹿島は、レオ・シルバ、三竿のところは(ボールを)狩れるし、つなげる。あそこ(を通すの)は危ないから、スキップしてもいい。そういう意図で、今日の自分たちは狙って蹴っていました。一方で、相手は自分たちの前からのプレスによって、蹴らされていた感じ。同じように見えると思いますけど、その質が違う」(鳥栖・小林祐三)

 ゲームはどちらに転んでもおかしくはなかった。ただ、鳥栖はジリジリした展開のなか、好機を伺っていた。後半アディショナルタイムに入って、何かが起きる予感はあった。

「試合終盤、相手のセンターバックは疲れて全然跳べていないし、走れていなかった。だから、(交代で入るときには)ガンガン裏を狙おうと。自分自身、筋肉系のケガで練習に合流したばかりだったんですが、5分なら全力で走れますから。ボールさえ来れば、必ずいけるって思っていました」(鳥栖・小野裕二)

 そしてドラマは生まれた。

 記録では94分だった。まず、鳥栖の選手がヘディングで入れたハイボールを、相手センターバックは跳べず、十分にクリアできなかった。こぼれ球を拾った鳥栖のMF高橋義希が、裏へボールを流し入れる。これに小野が勢いよく走り込む。するともうひとりの相手センターバックも出足が鈍く、ついていけない。小野が左足でクロスを折り返したとき、ゴール前に走り込んだ豊田は完全にフリー。左足でゴールネットを揺らした。

 まさに"鳥栖劇場"だった。90分の消耗戦を戦い抜き、最後に渾身の一撃を放つ。誰ひとり、仕事を怠っていなかった。

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