退場で数的不利でもあきらめずに走る。「湘南スタイル」の真髄を見た (3ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • photo by Getty Images

 今季、Jリーグは外国籍選手の枠が拡大し、各チームはそのレギュレーションを有効活用している。とくに勝敗を決しうる前線には、強力なタレントを配置するチームがほとんどだ。しかし、湘南の今季の外国籍選手登録は3人のみで、現時点で戦力となっているのはCBのフレイレだけだ。

 そこにはチームの方針もあるだろうし、金銭的な問題もあるだろう。ない袖は振れないのだから、その点に言及するのはご法度ではある。タラレバの話は不毛ではあるものの、前線にもう1枚強烈な個性があれば、結果は変わっていたかもしれない......そう思わせる湘南の戦いぶりだった。

 もっとも、外国籍選手がいないからこそのメリットもある。それは、若手を積極活用できることだ。

 ともに20歳の齊藤と杉岡はすでに主力として絶大な存在感を放ち、この日デビューを果たした高卒ルーキーの鈴木冬一は途中出場から流れを変える役割を担った。若手がチャンスを掴み、成長できる環境が湘南には備わっているのだ。

 そしてなにより、湘南らしさの基盤となるのは、走るサッカーという大前提だ。この日も後半の45分間を10人で戦ったにもかかわらず、チーム全体の走行距離は鹿島を3kmも上回り、スプリント回数は40回近くも差をつけている。

 ひとりひとりがより多く走り、数的不利をカバーする。まさに死力を尽くして走り続けた湘南の選手たちは、タイムアップの笛が鳴った瞬間、精根尽き果ててバタバタとピッチに倒れ込んだ。

「もう8年目なので、そういう言い方が正しいかわからないですし、何を言ってるんだというかもしれないですけど、非常に清々しい気分で僕はいます。それだけファイティングスピリットを持って最後までやってくれたし、このチームの監督であることをあらためて誇りに思いました」

 感慨深げに語った曺監督のコメントが、この試合を象徴しているだろう。どんな状況でもあきらめず、最後まで可能性を信じて戦い続ける――。湘南とはそういうチームであり、その姿勢を貫いたのだ。

 勝負には意味のある敗戦と、無意味な敗戦があるとすれば、この日、湘南が演じたのは間違いなく前者だった。

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