カンナバーロ率いる広州恒大の
ブラジル代表が躍動。ACLで広島を圧倒

  • 井川洋一●取材・文 text by Igawa Yoichi
  • photo by Getty Images

 これほどの選手の"プライムタイム"を、アジアで観られるとは思いもよらなかった。そしてACLに初出場したタリスカは、映像で確認していたとおり、遊び心のある楽しい選手であり、その左足は極めて危険だった。

 スタートポジションは右のセカンドストライカーながら、感性豊かに動き回り、「シャペウ(ポルトガル語で帽子の意。転じて相手の頭上にボールをとおすプレー)」で会場を沸かせたかと思えば、右の低い位置から逆サイドに長いフィードを送る。そして前半19分には、左サイドからのクロスを頭で仕留め、ホームチームに先制点をもたらした。

 対する広島はここまで、ほとんど防戦一方だった。客席に重厚な赤い壁を作った敵地のサポーターから受ける重圧は、多くの若い選手にとって初めてのものだったはず。ピッチ上では広州恒大のパワーとパス回しに翻弄され、プレッシャーに苛まれているように見えた選手たちは、短いパスさえうまく通せない。そして再び左サイドを攻略された後のCKから、今度はパウリーニョに押し込まれて追加点を許した。

 その後は相手がペースを落としたこともあり、広島の今季の狙いであるポゼッションこそできていたが、"赤い要塞"の外堀を埋めるばかり。無理に縦パスを入れても引っかかり、チームの課題である中央の崩しはこの試合でも改善されなかった。
 
 ハーフタイムには渡大生に代えて野津田岳人を投入し、巻き返しを図ったものの、状況はさほど好転しない。終盤にはCKやミドルからゴールを狙ったが、最後までゴールは遠く、0-2のまま終了のホイッスルを聞いた。

 広島にとって、この試合はどんな意味を持っていたか。18歳の松本大弥や東俊希ら、将来を期待される若者たちが、貴重な経験を積めたことは間違いない。

 日本ではなかなか集客数が伸びないACLだが、この日のスタジアムには4万8216人の観衆が詰めかけ、言うまでもなく、そのほとんどがホームサポーターだった。そんな会場で、欧州で鳴らしたブラジルやイングランド(CBのタイアス・ブラウニング)の選手、中国の代表クラスの選手たちと対峙したのだから、彼らが一人前になるための試練の場だったと言える。長期的な視野に立てば。

 しかし、今シーズンのアジアでの戦いを少しでも長く続けるには、初戦の黒星は避けたかったはずだ。来週の次節に予定されているのは、本田圭佑の所属するメルボルン・ビクトリーとの一戦。このオーストラリア勢も初戦を1-3で落としており、どちらも絶対に落とせない試合となる。

 本田の効果もあり、前売り券の売れ行きが好調だという。広島のホームスタジアムも、広州の本拠地のようにアジアのライバルにプレッシャーをかけ、発展中のチームの背中を押してくれることを願う。

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