鹿島の魂を受け継ぐ内田篤人。
新主将は10歳下の若手をべた褒め

  • 井川洋一●文 text by Igawa Yoichi
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

 小笠原満男は「鹿島アントラーズの魂」と呼ばれた。では、彼が引退したチームには鹿島のスピリットが失われてしまったのか――。

 そんな仮説がやむなく成立しそうな今季の開幕戦だった。J1昇格組の大分トリニータに、本拠地カシマスタジアムで1-2と黒星発進。爽快なパスサッカーで昨季のJ2を制した相手に多くの時間で主導権を握られ、勝ち切られた。

 シーズン初戦は独特の緊張感が漂うものだ。とはいえ、そこには昨季AFCチャンピオンズリーグで頂点に立ち、通算20冠を成し遂げたアジア王者の姿はなかった。

 日本随一のサッカー文化が根付くクラブに言い訳は似合わないが、名門が試練に直面しているのは事実だ。昨年のチームの主軸である、昌子源がフランスのトゥールーズに、西大伍がヴィッセル神戸に移籍し、小笠原が引退。昨季ACLの最優秀選手である鈴木優磨は負傷離脱が長引く不運に見舞われ、元代表の内田篤人や、代表クラスの三竿健斗も万全の状態にはない。

今シーズン、鹿島の主将を務める内田今シーズン、鹿島の主将を務める内田 さらに開幕戦の後には、韓国代表CBチョン・スンヒョンも故障で戦線離脱。状況が好転しないまま迎えた第2節の相手はJ1連覇中の川崎フロンターレで、場所はアウェーの等々力スタジアムだった。大分と同じポゼッション志向のチームでも、完成度は確実にこちらが上。底冷えのする金曜日の夜、苦境に立つアジア王者が、すでにスーパーカップも手にした盤石のリーグチャンピオンに敵地で挑んだ。

 自信に満ちた水色の選手たちが、ホームサポーターの大歓声を背に受けてテンポよくパスを回す。最終ラインか中盤の中央の選手がボールを持てば、両SBはウイングのように高い位置で幅を取り、質を約束するベテラン、家長昭博と中村憲剛が絶妙なタイミングで顔を出して保持率を高める。

 五輪得点王の肩書きを持つモダンなブラジレイロ、レアンドロ・ダミアンはプレスやフリーランに献身し、小林悠はサイドでも遺憾なくスキルとアスレティシズムを発揮する。

 鹿島はそんな相手からなかなかボールを奪えず、稀に回収してもうまくつなげることができない。前半8分、風のように侵入してきた小林を、レオシルバがファウルで止めたのは仕方ない行為にも映り、その後に中村憲剛が鮮やかに沈めた直接FKの先制点は必然にさえ思われた。

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