GKはゴールのすべては守れない。ドイツ式技術理論と日本人の可能性 (2ページ目)

  • 小澤一郎●取材・文 text by Ozawa Ichiro phoyo by Getty Images

 その理論のひとつの例として1対1の対応が距離によって明確に区分けされている。相手との間合いを詰める際、「0~3メートル」ならば、前傾姿勢で足を曲げ、面を作ってブロック対応。「3~5メートル」はGKにとって対応が難しい距離となるためそこに持ち込まない。「3メートル以下」に距離を詰められないなら、下がって「5メートル以上」距離を"稼ぐ"対応をする。距離を稼ぐ場合は、際どいサイドネットへのシュートは「捨てゾーン」、それ以外のゾーン(へのシュート)は責任を持って守る。

現在ドイツのカイザースラウテルンで研修中の松本氏(写真提供/松本拓也コーチ)現在ドイツのカイザースラウテルンで研修中の松本氏(写真提供/松本拓也コーチ) ドイツと日本のGKの違いについて「ドイツでは、捨てゾーンを作る事で自分のエリアに対して強さを発揮しています。一方の日本ではゴールのすべてを守ろうとして、結果どこもしっかり守れていない可能性があるのではないか」と言及する。

 Jリーグでも韓国人を中心に外国人GKの活躍が目立っているが、JFAインストラクターの加藤好男氏、川俣則幸氏らの尽力によって日本のGKの指導理論や育成システムは非常に高いレベルにまで引き上げられてきた。その前提があるからこそ、松本氏は自信を持ってこう発言する。

「日本人GKにももちろん優れた選手、タレントはいます。Jクラブのアカデミーでは、少なくとも中高の6年もの時間があるわけで、やり方次第では必ず日本からでも世界レベルのGKは育成できます」

 実際、柏には、中村航輔を筆頭にトップチームに在籍するアカデミー出身者のみならず、先日18歳でポルトガルの強豪ベンフィカと契約を結んだ小久保玲央ブライアンを含め、まだまだ優秀なGK、タレントが在籍している。

 柏レイソルのGK部門ではトップチームの井上敬太GKコーチとも連携を図り、早くから「想定外を想定内にする」というテーマの下、試合のシチュエーションを設定したなかでGKの状況判断を磨く指導メソッドが用いられている。

 今回、松本氏がドイツに行ったことで、柏のGK部門は今までの指導メソッドに加え、「ドイツ式」の理論や指導メソッドの導入も決めている。前編で紹介したGKコーチが蹴らない指導や、今回紹介した「ゴールのすべては守れない」という前提に立った捨てゾーン、守るべき責任ゾーンの設定もそのひとつである。

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