豊田陽平の鳥栖愛。「トーレスの控え」のクローザーとして仲間を思う (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki photo by Yamazoe Toshio

 クラブハウスがまだプレハブだった時代、ロッカールームは笑いで溢れていた。コの字に長いすを並べ、囲んだ中央にはマッサージが2台あった。どこかで選手がふざけ、合いの手を入れ、爆笑が起こる。治療を続ける選手も含め、選手一同が同じ空間を共有した。いつも賑やかで、隅っこは存在しなかった。「地獄」という表現がふさわしいような厳しい体力トレーニングを乗り越えた仲間同士、その絆は深まっていった。

<後半、走り負けない>

 不屈さによって勝利するたび、その自信は増した。

 しかし、資金を得たクラブは、キャリアのある選手を獲得し、施設を最新化。否応なく、変化を余儀なくされることになった。

「昔は昔ですから」

 豊田も弁(わきま)えている。しかし、譲りたくないものはある。最後まで戦いをあきらめない――。鳥栖で英雄となった男の矜持(きょうじ)だ。

「金明輝監督は、いいトレーニングをしていれば、しっかり評価してくれます。正しくなかったら、スパッといく。それは健全な競争ですよ」

 最後の5試合を3勝2分けで切り抜けられたのは、監督交代のおかげだろう。金監督とは現役時代、チームメイトだった。引退後は、家族ぐるみの付き合いをしていた。しかし監督就任の瞬間、お互いに付き合いを断った。少しでも情に流れることはプロとして正当ではないからだ。

 2019年で、豊田はクラブ在籍10年目になる。

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