パスは全部愛情つき。広島ひと筋19年の森﨑和幸、最後のメッセージ (4ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 ボランチで長年コンビを組んできた青山敏弘は、「もはや言葉は必要ない。それくらいわかり合えている」と振り返ってくれた。

「カズさんはその時々で何をすればいいのか、試合のことすべてをわかっているので、自分のよさが出せる関係に自然となる」

 かつて森﨑に、こんな質問を投げかけたことがあった。試合中にどんなことを考えてプレーしているのか――。すると、彼はこう教えてくれた。

「選手ってどれくらいボールを触っているかどうかで、調子の善し悪しが変わったりするんですよね。今日はたくさんボールを触っているから調子がいいなとか、あんまり触れていないから波に乗れないなとか。だから、あまりボールを触っていない選手がいたとしたら、その選手にパスを出すようにしている。みんなが万遍(まんべん)なくボールに触り、みんなが今日は調子がいいと感じれば、チーム全体の調子も上がりますからね」

 そこまで考えていることを知り、ただただ驚いた。ボランチとして試合をコントロールするとは、そういうことなのかとも感じた。

「たとえば勝っているときに、チームとして攻め急ぎすぎていると思えば、ミスにならない程度に、わざと少しずれたパスを出すんです。そうすることで、次のプレーが少しだけ遅れて、勢いが緩む。必然的に落ち着きますよね。攻撃しなければいけないときは、もちろん足もとへ。少しペースダウンしたほうがいいと思えば、本当に見ている人にはわからない程度に、少しだけパスをずらすんです」

 森﨑は「半分は理論で、半分は感覚。本当に今までの積み重ねでしかないですけどね」と言って笑った。その話を聞いたのは、彼が「今シーズンいっぱいで引退しようと思う」と聞いた日の夜だった。

 勝利にこだわる姿勢も、1本のパスも、森﨑のプレーにはメッセージがこもっている。今シーズンも残り1試合――。19年間、サンフレッチェ広島のためにプレーしてきた彼と一緒のピッチに立つことができるのは、彼の勇姿が見られるのは、次のコンサドーレ札幌戦が最後となる。

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