パスは全部愛情つき。広島ひと筋19年の森﨑和幸、最後のメッセージ (2ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 試合前や引退セレモニーでは感傷に浸ることもあったが、ピッチに立った森﨑は、最後まで「勝利にこだわる」姿勢を貫いた。だからセレモニーを終えて、ミックスゾーンに現れた彼の第一声は、自身のことではなく、試合についてだった。

「試合に勝てなかったのが残念です。負けている状況でピッチに入ったので、まずは同点に追いついて、チャンスがあれば逆転したいと思っていた。個人というよりも、自分がこだわってきたのはチームの勝利。結果的にそれができなかったということは、(自分自身も)限界だったのかなと思います」

 ホーム最終戦となったJ1第33節の名古屋グランパス戦は1−2で敗れた。広島はこれで6連敗。後半19分に途中出場した森﨑は、これまでもそうだったように、チームに勝利をもたらせなかったことを悔やんだ。

 たしかに森﨑がピッチに立ってからも、広島にゴールが生まれることはなかった。それでも......随所に技術の高さを見せ、精度の高いパスで攻撃の起点となった。70分には、森﨑から縦に、縦につなぐと、柏好文がディフェンダーの裏に走り込み、シュートチャンスを得る。73分にも森﨑の縦パスをティーラシンがはたくと、またもや柏が名古屋のゴールに迫った。

「スペースがあったから活かそうと思った」という森﨑は、時にはショートパスで、時にはサイドを大きく変えるロングパスで攻撃を彩った。

 ボランチである森﨑に、自然とボールが集まっていく。1点を追う広島は、もともと攻めなければならない状況ではあったが、森﨑のプレーは、攻撃のテンポとは、リズムとはこうやって作っていくんだと言わんばかりだった。

「自分としては特別なことを考えるのではなく、今まで積み上げてきたプレーをピッチで表現できればと思っていた。負けていたので、縦に縦にというのを意識して、相手をいなすというよりも、仕掛けるプレーを選択したつもりではいます」

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