鹿島で優勝する術を学んだ山本脩斗。「満男さんがそれを示してくれた」 (2ページ目)

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko
  • 渡部 伸●写真 photo by watanabe shin

 レベルの高い環境に身を置いていることは自覚しても、思うように試合に出られない現実を素直に受け入れることも出来ない。同時に結果を残せていないからだという事実も理解している。「ここで腐ってはいけない」という気持ちは当然のように抱いていても、やり切れないという感情が当然のように芽生えるだろう。プロになるために必要だったプライドや勝気な性格が、厚くて高い壁を前にしたとき、邪魔になることもある。厳しさから逃げるのは容易だ。誘惑はいつもそばにある。そんなふうに揺れる心を抱えた選手を起用する甘さは、プロの世界にはなく、チャンスの扉が遠のくのを実感するだけで、ただただ迷路のような毎日が続く。

 山口にとってのプロ最初の夏は、そんな葛藤の日々だったことは想像できる。それは多くの選手が味わう空しさであり、迷いであり、戦いだからだ。

 差し伸べられた手を頼りに立ち上がったとしても、それは答えではない。自分の足で立ち上がり、強い意志と共に足元を見つめ、実直にできることを探し、それに取り組んでいく。レベルの高い場所へのチャレンジに葛藤はつきもの。小さな一歩を積み重ねていくしかできなくとも、前へ進むしかない。

 久しぶりのピッチに立った山口は、吹っ切れたように軽快なプレーを見せていた。その姿は頼もしく、夏前の山口よりも怖さがあった。

 後半17分土居聖真のゴールに続き、後半25分には、山口のパスから安西のクロスに反応したセルジーニョのヘディングシュートで2点目が決まる。2-2。あと1ゴールで勝ち抜けられる。後半39分、金森健志に代わり昌子がピッチへと送り込まれる。その直後にはコーナーキックのチャンス。昌子がサポーターを盛り上げるように両手を振った。

 何度も得点の匂いを漂わせながらも、結局あと1点が決められず、試合終了。鹿島のルヴァンカップが終わった。

 厳しい残暑が続いた2018年9月。鹿島は負けなしで走り続けた。しかし、秋の訪れとともに3戦未勝利。今季何度目かの正念場を迎えている。日々戦いの舞台に立つプロチームには、息をつく間はないのかもしれない。常に歓喜と落胆は背中合わせなのだろう。

 それは山口とて同じだ。壁をひとつ乗り越えただけで、安堵できるものでもない。乗り越えたと思った壁に足をとられる可能性だってあるのだから。

「今日チャンスが回ってきたんで。いつも出られない選手がたくさんいる中、僕がチャンスをもらえたので、出られない選手の分まで頑張ろうと思いました。少ない(チャンスの)なかで結果を出してこそのプロだと思うし。次は結果を出せるようにしっかり練習をしていきたいです」

 試合後、笑顔を見せることなく語る山口の言葉には重さがあった。

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