2018.10.10

スペインの名伯楽の戦術講義。
「50cmいる場所が違うだけで差が出る」

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

 今やそのエメリは、戦術家として世界的名声を得ている。

「最近、サッカーがロマン主義に流れていないか。そのことはひとつ、提起しておきたい。美しいフットボールとはなにか。ポゼッションが高いことなのか。縦パス1本でゴールを狙えるなら、それは最善の手段となる」

 そう語るエチャリは、単純なパスサッカーの追求に疑問を呈している。

「プロは勝ち負けがつく。整理すべきは、失点しなかったら負けないということだ。一方、得点しても負けることはある。だったら、どうするべきか。まずは失点しない状態を整備するべきだろう」

 90年代、2部にいたエイバルを率いたエチャリは、5バックを運用し、堅い守備で2シーズン連続の残留に成功している。

 とはいえ、単にディフェンシブな考え方の持ち主ではない。選手の力量に合わせ、論理的に戦っているだけだ。その単純明快さに、エチャリの奥深さがある。

「日本でもそうだったが、『トランジション(攻守の切り替え)について聞きたい』という指導者は少なくない。しかし、トランジションという状態は存在しない。サッカーは自分たちがボールを持っているか、相手が持っているか。トランジションは切り替えの一瞬を指すが、そこに対して努力しても成果は出ない。必要なのは、攻めているときに守る準備をし、守っているときに攻める準備をすること。そのポジショニングを突き詰めるべきだ」

 トランジションは現象としては存在するが、そこを突き詰めても正体は見えない、ということだろう。攻守一体。数的優位ではなく、ポジション的優位を取れるか。

「50cmいる場所が違うだけで、トランジションで差が出る」

 エチャリはそう言う。その細部にこそ、監督の差は表れるのだ。
(つづく)

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