ジーコは意気込む。鹿島のために「現場に立ち、構築、修正していく」 (3ページ目)

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko
  • 井坂英樹●写真 photo by Isaka Hideki

 そこからさらに鹿島の攻撃は加速度を増す。内田、山本の両サイドバックが高いポジションを取り続けた。ハーフの選手もそれに続く。カウンターのリスクも当然あるが、「後ろはセンターバックとボランチとで守り切るつもりでやっていた」とは三竿。

 そして、スンテの好セーブは続く。ゴールライン上ギリギリのところでセーブし、鬼の形相。唯一ACL王者に立った経験を持つスンテは、絶対的な存在感を放ち、水原のシュートは枠を外れる。

「僕が以前プレーしていた全北現代を破って勝ち上がってきた水原には、負けたくはなかった。水原サポーターは多分、僕のことが嫌いだから、アップしているときからスタンドの水原サポーターからは、罵詈雑言が飛んでいました」

 破顔しそう言った。取材開始後初めてスンテの顔から笑顔が生まれた瞬間だった。

「敵地水原へ行けば、もっとすごいことをたくさん言われるはず。だから、チームメイトに言っておきたいことがあった。『俺はこんなことを言われている。だからこそ、勝ってくれ』って」

 後半アディショナルタイム。敵陣向かって右。好位置でFKを得ると、鹿島の選手が敵陣のペナルティアーク付近に並んだ。そのとき、スンテが安西を呼び、少し自陣へと下がらせた。

「セルジーニョのFKが素晴らしいことはわかっていたけれど、壁に立つ相手の選手がカウンターを狙っているように見えた。だから、安西に下がるよう指示した。試合は笛が鳴るまで終わっているわけじゃないから」

 そのFKからのこぼれ球をペナルティエリア内中央で内田がシュート。1度は相手に当たったものの跳ね返ってきたボールをシンプルに蹴った。「なんか変なシュートになっちゃったけど、とにかく、オフサイドになるから、(山本)脩斗さん触らないでと祈っていた」と内田。その目線の先で、ボールはゴールに吸い込まれた。アディショナルタイムでの逆転劇。遠藤に代わり途中からキャプテンマークを撒いた内田がヒーローに輝いた。

 チームメイトにもみくちゃにされながら喜んだ内田だったが、試合後は淡々とした様子だった。厳しい言葉も自然と口をついた。開始早々の2失点。しかもホーム。守備陣としては許しがたいことだった。逆転はできた。得点も決められた。それで良し、とはできない。だからと言って、反省しすぎてもいいことはない。

「勝って兜の緒を締めよって日本では言うけど、勢いに乗ることも大事。欧州の選手だったら、最初の2失点のことなんて、みんな覚えてないよ」

 バランスを度外視し、リスクにひるまず、必死に勝利だけを信じた。時計の針と共に焦りは当然生じる。そういうなかで、熱さを隠すことなく、食らいつくようにゴールへの執着心を発露させた。それが鹿島の男たちの意地だった。

「相手が韓国のチームだから、絶対に負けたくはなかった。鹿島アントラーズのために、勝ちたかった」

 加入からわずか2か月。若いスンヒョンの顔が晴れ晴れしかった。

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