王者川崎の強烈なレッスンにKO寸前。この刺激がグランパスを強くする (2ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 そんななかで迎えた川崎フロンターレとの一戦は、彼らの力量を推しはかるうえでの試金石と言える試合だった。風間監督がかつてその哲学を植えつけた、モデルケースとなり得るチームであるからだ。

 しかし、目の当たりにしたのは、圧倒的な完成度の違いだった。とりわけ、前半は一方的と呼べるような展開で、20分にオウンゴールを献上すると、34分には阿部浩之に豪快なミドルを叩き込まれてしまう。

 見逃せないのは、その後の展開だ。後方で何とかしのいでも、川崎の鋭いプレスを受けて、ボールを前に運べない。しのいでは奪われ、ふたたびピンチを招く。失点には至らなかったものの、コーナーに追い詰められ、ひたすらパンチを浴び続ける「KO寸前のボクサー」を見ているようだった。

「立ち上がりから今までと同じようなことができなかった。自分たちのいいリズムが作れなかった」

 風間監督はそう試合を総括した。

 なぜ、できなかったのか――。その理由を、独特の表現でこう続けた。

「簡単に言うと、目に見えていないものを相手にしてしまった。矢印というものは、ボールを出して自分がもう一度動けばフリーの定義が変わるので、簡単に崩せるはずなのですが、それができていたのは3人くらいでしたね。当たり前のものが当たり前に見えなければいけない。当たり前のものが当たり前じゃないものに、自分たちのなかで錯覚を起こしてしまったというところもあると思います」

 なかなか解釈が難しい説明だが、視野のとり方や位置取り、あるいは判断の部分で、本来やるべきことを怠ったからこそ、当たり前のことができなかったということなのだろう。

 錯覚を起こしたのは、川崎のプレスに戸惑ったこともあるはずだ。ボールを受けても、前に向けない。あるいは、パスコースを見出せない。時間的な猶予のなさが焦りを生み、当たり前の状態を生み出せなかった。

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