「トーレスに向けて蹴る」でいいのか。3戦無敗、鳥栖のジレンマ (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki 山添敏央●写真 photo by Yamazoe Toshio

 結局、自らドリブルで強引に切り込むしかないのが現状だ。

「トーレスはキープができるし、ボールを持つと取られない。ただ本当は、彼がシュートを決めるようなパスを合わせたいんですけど......。なかなかボールが来ないのもあって、難しいですね」(鳥栖・FW小野裕二)

 現状ではトーレスが前線でボールをキープし、パサーにならざるを得ない。川崎戦も、何度か前線のプレーメーカーの役を担っていた。たとえば、ダイレクトボレーで左サイドへ展開したパスは白眉だった。しかし、リターンを受けにエリア内に走り込んだものの、パスは戻ってこなかった。

 結局、トーレスは2試合続けてシュート数0に終わっている。かつてアトレティコ・マドリードで5年連続で2桁得点を記録し、プレミアリーグではクリスティアーノ・ロナウドと得点王を争い、EUROで得点王となったゴールゲッターとは思えない。

 もっとも、トーレス自身は泰然としたものだ。リターンがミスに終わったにもかかわらず、その意図を汲み、拍手でチームメイトを讃えている。歴戦の勇者だけに、焦りは少しも見えない。

「(降格圏という)厳しい状況を抜け出すには、チームのために働く、というチームスピリットが大事。その点、トーレスはその犠牲精神で戦ってくれている」(フィッカデンティ監督)

 直近3試合で2勝1分けと、成績だけでいえば、文句がつけられない。トーレス効果で順位を上げた、ともいえる。トーレスは後半途中から目に見えて運動量が落ちるが、その実力は傑出している。

 欧州シーズンは8月下旬開幕で、これからコンディションが上がるところだ。真価を発揮したトーレスは、こんなものではない。

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