大島僚太よ、自我を出せ。ゴール前では「うまさ」より「こわさ」だ! (2ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 実際に川崎Fの攻撃のほとんどは、大島から始まった。後方でシンプルにボールをさばきながら相手の隙をうかがうと、味方もそれに呼応するかのように動き出しを繰り返す。簡単にサイドに展開して幅を生み出しつつ、ここぞという場面でくさびを打ち込んで、フィニッシュシーンを導いた。

 ボールを奪われないボールコントロールの巧みさも特筆すべきで、ボールロストを犯したのは、カウンターからドリブルで持ち出したところを止められた13分の場面くらいだっただろう。

 レギュラーと目されながら、大会直前にコンディションを落とし、結果的にワールドカップの舞台には立てなかった。大島が人知れず、その悔しさを抱えていることは想像に難くない。淡々としたプレーからはその感情は読み取れないものの、中村憲剛、小林悠、家長昭博と"大御所"たちを巧みに操りながら、クールかつ正確に攻撃のビートを刻んでいく様は、まるで職人のようであり、むしろすごみすら感じられた。

 後半に入ると大島は、存在感をさらに高めていく。後方でボールをさばく機会が多かった前半とは対照的に、バイタルエリアへの進入機会が増加。より後ろ体重になった長崎の守備ブロックを崩そうとする意識の表れだった。

 目を見張ったのは、66分のシーン。中央から左に流れながらパスを引き出すと、振り向きざまに左足でエリア内に走り込んだ小林にピンポイントスルーパスを供給。惜しくもオフサイドとなり、得点には結びつかなかったものの、高い技術とセンスを見せつけるプレーだった。

 もっとも、きらりと光る能力を披露しながらも、この日の大島は主役とはなり得なかった。67分、一瞬の隙を突いた中村のスルーパスに抜け出した小林が、一度はGKにストップされたものの、こぼれ球を豪快に蹴り込んで決勝ゴールをマーク。川崎Fが誇るふたりの"千両役者"が結果的に、チームに勝利を呼び込んだ。

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