フリューゲルス消滅、アツは「天皇杯で優勝すれば...」と奇跡を信じた (2ページ目)

  • 佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 しかし、すべての人が好意的にとらえてくれたわけではなかった。横浜にはマリノスファンもたくさんいる。なかには「フリューゲルスは嫌いだ。俺はサインなんかしねぇよ」と、喧嘩口調で吐き捨てる人もいた。

 そういう人に対しても、三浦は「嫌いなチームと一緒になりたくないでしょ。でしたら、署名してください」と、丁寧に頭を下げて署名をお願いした。しかし、署名はしてもらえず、冷たく一瞥(いちべつ)されて立ち去っていく人が多かったという。

 そんなことで、三浦がめげることはなかった。翌日からは練習が終わったあと、選手が住む近くの駅で署名活動を進めることとした。

 三浦は当時、横浜市の仲町台に住んでいた。同じくその近隣に住む吉田孝行と波戸康広にも声をかけて、一緒に行なった。

 吉田と波戸は、兵庫県の名門・滝川第二高出身の同期入団(1995年)ではあるが、当初から"水と油"の関係として有名だった。同じFWというポジションにあってか、互いに異常なライバル心を持っていて、たびたび殴り合いのケンカもしていた。

 三浦はそれを見かねて、吉田と波戸を大分での自主トレに呼んだ。そこで、ふたりの腹の中にある思いをすべて吐き出させて、お互いのわだかまりを取り除いた。それ以来、ふたりは10年来の親友のように仲良くなったという。

 そんなふたりと、三浦はほぼ毎日、駅前に立って署名活動を行なっていた。

 署名活動と並行して、選手会会長の前田浩二らは合併の"白紙撤回"を求めて、クラブ側との交渉を続けていた。そこでの話し合いは、選手たちの情熱もあって、連日紛糾していた。だが結局、結論を変えるまでには至らなかった。

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