20年前に起きたJリーグ最大の悲劇。
そのとき「F」の選手たちは...

  • 佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

「(Jリーグの)この決定も衝撃的でしたね。報道が出た、その日でしょ。ということは、ずいぶん前から(合併の)話が出ていたってことじゃないですか。『なんだよ、結局は上同士ですべて決めているんだ』『自分たちやサポーターは置き去りで、そこには存在しないんだ』って、思いましたね。でも、僕自身はJリーグの決定を聞いて、逆に燃えてきましたよ。ますますフリューゲルスを何とかしたい、チームを残したいって思うようになりました」

 当然のことながら、翌日になっても選手たちが平静さを取り戻すことはなかった。練習はもちろん、試合をこなせるような状況ではなかった。一部の選手からは「チームがなくなるなら、試合に出ても無意味。ボイコットすべきだ」という声も上がった。

 しかし、試合をボイコットしたところで、事態は何も変わらない。「試合を無にすることだけは回避しよう」と山口らが説得し、ボイコット案はボツになった。

 10月31日、横浜国際総合競技場で行なわれたホームのセレッソ大阪戦は、試合前から異様な雰囲気に包まれていた。

「正直、騒動となって以来、練習はほとんどできていなかった。チームがなくなる不安とクラブへの不信感が募る中で集中するのは難しかったですね。でも、試合に勝たないと何も始まらないし、先にもつながらない。チームを存続させるために、試合のときはみんな必死だった」

 不穏な空気が漂っていたスタンドとは打って変わって、ピッチ上の選手たちは目の前の試合に全力を注いだ。その結果、練習不足など感じさせない強さを見せつけて、7-0と大勝した。

 試合終了後、クラブの説明を求めて多くのサポーターがスタンドに居座った。

「フリューゲルスを存続させてほしい」

 サポーターの願いは、ただひとつだった。

 同じ頃、マリノスも試合後、フロントがフリューゲルスの"吸収合併"について、サポーターに説明していた。

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