FC琉球に入った播戸竜二
「これまでの20年以上のものを得る予感」

  • 高村美砂●取材・文 text&photo by Takamura Misa

 そんな彼がようやく自分を取り戻したのは、母の四十九日法要が終わったあとだ。

 播戸の実家のある兵庫県旧・香寺町(現・姫路市)では、亡くなられた方を弔うために、四十九日法要を迎えるまでは毎日、親戚縁者が集まってお経をあげるという地元ならではの風習がある。そんな毎日を過ごし、法要を終えたあとにふと、気持ちがスッと楽になったと言う。

「言葉にするのが難しいけど、四十九日法要を終えて『ああ、お母さんは天国に行ったんやな』って素直に思えて。ずっと何かに縛られて硬くなっていた心が初めて和らいだ気がした。そのときに『ここからまた、俺は自分の人生を歩んでいかなアカン』と思えたし、そこで初めて、プロサッカー選手としての自分を必要としてくれた、FC琉球でお世話になろう、ボールを蹴ろうという気持ちが湧いてきた」

 そこからは、あっという間に事が進んだ。FC琉球に連絡を入れて加入の意思を伝え、1月20日には沖縄の地に渡り、1月22日には沖縄市役所での新体制会見に臨む。以来、前編の冒頭で記した「忙しい毎日」が始まり、J3リーグを舞台にした新たな挑戦が始まった。

移籍後、初めて出場した練習試合。古巣・ガンバ大阪と対戦し、1ゴールを決めた播戸(右から4番目)移籍後、初めて出場した練習試合。古巣・ガンバ大阪と対戦し、1ゴールを決めた播戸(右から4番目)「自分が心を開いてからは、地元のいろんな人と交流を持つようになった。その中で感じたのは、島の人たちにとって、僕がプロサッカー選手であることなんて、はっきり言って関係ないってこと。一緒にいて楽しい、とか、美味しいものを美味しいねと言い合えるとか、そういうことが重要で、それがすべてなんよね。

 でも考えたら、俺も本来はそうやったというか。プロになり、名も知れるようになり、自分を取り巻く環境がどんどん変化していくうちに、逆に自分の世界が狭まって、鎧(よろい)がどんどん厚くなって、プロサッカー選手であることに縛られすぎて、自分がただのイチ人間だということを忘れていた。

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