ベンゲルに届いた巨大なオファー。名将がグランパスを去る日がきた (2ページ目)

  • 飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi

 8月に入ると、現地ではベンゲルの就任が決定的と報じられるようになり、ベンゲルは連日のように日本の報道陣に囲まれた。「今はグランパスでの仕事に集中するだけ。未来のことは誰にもわからない」と答え続けていたが、そうした状況が1か月近く続くと、普段は温厚なベンゲルもさすがにキレた。木本が振り返る。

「『今後、この質問には一切答えない』って顔を真っ赤にして怒ったんです。でも、監督によっては平気で嘘をついて、そのときがきたらバイバイっていう人もいるけど、ベンゲルは一度も残るとは言わなかった。本当のことは言えないけど、嘘もつかない。誠実な人なんだなと思いました」

 一方、選手たちの気持ちは揺れていた。

「こんなにすごい監督なんだから、仕方ないよなって思いました」と言うのは中西哲生だ。イングランドの名門クラブからオファーがくるなんて、あらためて自分たちのボスがいかに優れているかが証明されて、誇らしい気持ちもあった。

「でも、プレミアリーグは開幕してたんですよ」と振り返ったのは大岩剛(ごう)である。

「シーズンインしたんだから、今年はもう行かないんじゃないか、と思った」

 大岩がそう言うように、ベンゲルが去就を明言する前の8月15日、1996‐1997シーズンのプレミアリーグが開幕した。

 しかし実は、アーセナルは開幕の5日前にリオホを解任し、代理監督を立ててシーズンを迎えていた。監督の席を空けて、ベンゲルの着任を待っていたのである。

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る