「じげもん」が見たV・ファーレン長崎、苦節14年で万感のJ1初陣 (2ページ目)

  • 藤原裕久●text by Fujihara Hirohisa photo by Masashi Hara/Getty Images

 ピッチの中では、チーム在籍7年目、33歳の前田悠佑がアップをしている。大学卒業後に長く企業チームでプレーしていたため、Jリーガーとしてはまだ6年目という異色のベテランで、Jリーグ参入前のチームを知る唯一の選手だ。

 そのすぐ近くでは髙杉亮太がアップをしている。今年、3年ぶり2度目のキャプテンに任命されたことからもわかるとおり、チーム内で抜群の信頼を得ているチームリーダーだ。2人とも初めてのJ1でのプレーとなるが、気負った様子は見られない。

 ふと、スマホに目をやると数件のメッセージが入っている。

「いよいよJ1ですね。楽しみにしています」「J1開幕、応援しています」......ずっと以前に長崎でプレーしていた選手たちからだった。

 2005年の発足からこの日まで、無数の選手たちがJリーグという夢を目指してクラブに加わり、そして去っていった。

「何で俺なんだよ!」。契約満了を告げられてそう言った選手がいた。「悔しい」と言ったきり黙り込む選手もいた。「明日から無職だよ」と目を真っ赤にしながらおどけてみせる選手もいた。「誰かがやることだったんだろうけど、それを最初に、自分たちがやれたのは素晴らしいこと」。そう言って発足初年度だけプレーして去った選手もいた。

 後に聞いた話では、2005年当時、所属していた選手の大半は、自分たちがJリーグ入りするための土台で終わることを承知してプレーしていたという。彼らのことを思うと、昨年の経営危機の際にクラブが消滅しなくて本当によかったという思いと、J1に昇格できたことで、彼らの夢を裏切らずに済んだという気持ちが湧いてくる。

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