ベンゲルに挨拶に来たジョージ・ウェア。グランパスの選手は仰天した (3ページ目)

  • 飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi

ベンゲルのすごさを思い知ったフランスキャンプ

 青々と茂る木立の間を、心地いい風が吹き抜けていく。

 ベルサイユ宮殿の庭園に面して建つトリアノンパレス。ベルサイユ条約を起草した場所としても知られる瀟洒(しょうしゃ)なホテルが、5月19日から約2週間にわたる名古屋グランパスのフランスキャンプにおける宿舎だった。

 Jリーグの中断期間を利用して、アーセン・ベンゲルは自身の故郷であるフランスにチームを連れてきた。素晴らしいホテルに度肝を抜かれた選手たちは、昼時になってさらに驚かされた。初日の昼食会場に黒人選手が現れ、ベンゲルとの再会を喜び、ハグをしたのだ。

 その選手とは、この年の12月にアフリカ人選手として初めてバロンドールに輝くことになる、ジョージ・ウェア(現リベリア共和国大統領)だった。モナコ時代にベンゲルのもとでプレーしたウェアは、その後パリ・サンジェルマンに移籍し、リーグ優勝やカップ戦の優勝に大きく貢献する。

 そして、まさにこの夏にACミランに移籍し、"リベリアの怪人"として世界のサッカーシーンで知られるビッグネームとなるのだが、そのウェアが「アーセンは私のパパだ。パパについていけば、なんの心配もいらない」と話したのだから、選手たちはベンゲルへの尊敬の念を深めざるを得なかった。

 それだけではない。パリ・サンジェルマンの公式戦を観戦するため、ホームスタジアムのパルク・デ・プランスを訪れた際は盛大なもてなしを受けた。ベンゲルは、スタジアムの外ではファンにサインを求められ、スタジアムでは警備員に「どうぞ、どうぞ」と促され、クラブ関係者に握手で迎え入れられた。

 それから20年以上経った今もなお、興奮を含んだ口調で平野が当時を振り返る。

「もうびっくりしましたよ。うちの監督って本当にすごい人なんだなって」

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