マリノス新旧10番対決。齋藤学はためらわずに中村俊輔を削った (4ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki 山添敏央●写真 photo by Yamazoe Toshio

 72分、齋藤がカウンターから反撃に出る。弾むようなドリブルからウーゴ・ヴィエイラの決定機を演出。その直後だった。齋藤は3列目に下がった位置から、エリア内にいた金井貢史に絶妙な縦パスを打ち込む。それは中村が得意とする、中盤でスキルとビジョンを使うプレーだった。

「貢史君が見えた。いいところにいるな」(齋藤)

 パスを受けた金井が右足を振り抜き、これが決勝点になった。

 試合後、齋藤は自ら中村に話しかけ、ユニフォーム交換を要求している。しかし、中村はそれを「中で」と断った。世代交代は、儀式としては行なわれていない。

「ミーティングの成果が出ました! みんな、戦っていましたから」

 齋藤は試合後、屈託のない表情で洩らしている。それはキャプテンとしての本音だろう。一方で、1人のプレーヤーとしての不満も口にした。

「ゴールしていないんで。まだまだです。無回転で1本打ったんですけどね」

 彼は純粋に、サッカーがうまくなりたい、という気持ちを失っていない。かつて中村がそうだったように。2人の10番には、2人の間でしか測れない共感と敬意がある。お互い、10番を意識しないはずはないだろう。齋藤は一度、ためらわずに中村を後ろから削った。危険な選手と感じたからだ。

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